学歴と結婚と階級社会

 私は子どもの頃から「世界は不自由で不平等で不条理である」という意識を持っていたが、そんなひねくれ者になった原因の1つは、子どもの学力が親の「資力」と「教育意欲」と「文化的素養」に左右され、往々にして学歴は親子間で再生産されるという事実を経験的に知っていたことだった。
 私の周りの成績の良い児童は誰もが大学出の裕福なホワイトカラー(具体的には医師、弁護士、宝石商、建築士、教師などだった)の子であり、低学歴で経済的に零細なブルーカラーの子どもで成績が良かったのは私くらいだった。故に、勉強は誰でも努力すればできるようになるという教師の言葉を私は蔑んでいた(実際私は「運」が良かっただけで、「努力」だけでは進学できなかった)。貧乏人の子どもはたいてい下品で、頭も悪かった。そして裕福な連中は言葉にできない「何か」があった。小学生の時にはすでに人間の能力は育った環境によって決定されるという「真理」に到達していた。
 それだけに大学時代にピエール・ブルデューの「文化的再生産」論を知り、長年疑問だった裕福な連中だけが持っていた「何か」の答えがわかった時は泣くほど感動したし、戦後教育の「平等神話」を実証的に否定した苅谷剛彦氏の研究が出た時は、自分の直感の正しさがようやく証明されて安堵したものだ。「自己責任」論を全く支持できなかったのも、幼少時からの経験が生きていたからである。

 唐突にこんな話を書いたのは、次のようなニュースを目にしたからである。
 母親が高学歴の男性、結婚相手の学歴も高い傾向=米調査|世界のこぼれ話|Reuters
 http://jp.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idJPJAPAN-31685320080508
 アメリカの大学が20-30代男性のうち収入の高い層を対象に調査したところ、母親が大卒だと大卒の女性と結婚する傾向が、母親が大学院卒だとやはり大学院卒の女性と結婚する傾向が高いことがわかったという。
 記事では男は結婚相手を選ぶにあたって、自分の母親と同じ学歴水準の女性を選ぶということに力点を置いているが、この調査はむしろ高学歴の親の子どもは高収入の職に就く可能性が高く、それだけでなく高学歴の配偶者を得る傾向が高いという事実を示していることが重要である。

 つまり「結婚」というものが階級の固定化を促進しているということである。これは本田透氏あたりが主張している「恋愛資本主義」とも関係するが、結婚は自由であればあるほど市場原理が働き、付加価値の多い配偶者を得ようとする。収入が多い、顔がいい、コミュニケーション能力が高い、といった要素が多いほど「結婚市場」で有利になる。問題なのはそうした付加価値は親子間で再生産されることである。
 容姿は遺伝なので言うまでもないが、経済力や学歴も親子間で「世襲」され、なおかつ付加価値の高い配偶者と結婚し、その間に生まれる子どもは両親から恵まれた付加価値を受け継いで、またしても高いステータスを得る、ということが繰り返されることで、階級は実質的には「身分」へと変貌する。本来、身分社会を解体する機能を持っていた「恋愛結婚」が市場原理というスパイスが加わることで、むしろ「身分」を復活させているのである。

 ロイターの記事はアメリカの例だが、日本も同様の事態が進行しているはずである。階級社会を流動化させるためには、階級間の結婚が増えることが望ましいが、現実はそうなっていない。現代の「貧困と格差」を考える上で、経済的な所得格差や待遇差別だけでなく、結婚を通した階級の強化という問題を見落とすことはできまい。
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-05-08 22:07


<< 雇用保険の国庫負担全廃へ~社会... 厚生労働省の「日雇派遣指針」全文 >>