自民党の防衛省「改革」提言は危険すぎる

 昨年来、防衛省・自衛隊を巡っては、インド洋での海自補給艦の給油量虚偽報告や航海日誌破棄、アメリカ軍への軍需利権に関する汚職、イージス艦が漁船に衝突した事件など不祥事が相次ぎ、「改革」を求める声が各方面から上がった。
 これらはいわば政治化した「表」の不祥事であるが、一方で情報保全隊による市民監視活動、自衛官の自殺増加、自衛隊内部でのパワハラ・セクハラの発覚など、マスメディアがあまり報じない「裏」の不祥事も深刻で、本来「専守防衛」を旨とした自衛隊が、日米軍事一体化の「進展」によって海外で戦争のできる軍隊へと変貌を遂げつつある状況の矛盾が噴出している。

 こうした中で「表」の不祥事に対しては、政府に「防衛省改革会議」が設置されたが、それとは別に防衛省・自衛隊の「改革」案を検討していた自民党の防衛省改革小委員会が、今日「改革」の提言を公表した。
 提言・防衛省改革(4/24)-自民党
 冒頭で「不祥事などの事案」の「再発防止への取り組み」と称しているので、一連の不祥事を受けた予防策や改善策と思いきや、さにあらず、これがなんと専ら「制服組」の権限強化を中心とした自衛隊「強化」論なのである。

 まず「防衛省改革」のためには「憲法改正」を「早急に実現することが重要である」と強弁しているのに驚かされる。一連の不祥事が憲法9条のせいで発生したとでも考えない限り、この論法は成立しない。普通に考えれば現行憲法と汚職や衝突事件に直接の因果関係はない。それとも憲法を変えれば問題を隠蔽しやすくなるという意味なのだろうか。そんな「改革」など「改革」ではないのは言うまでもない。

 「制服組」の権限強化の具体策は、①「制服」を含む防衛省・自衛隊出身者の首相秘書官任用や首相を補佐する自衛官の副官設置、②防衛省内部部局に「制服組」を入れる、③統合幕僚長の権限強化と統合司令部の設置、④自衛官の国会出席・報告のルール設定などである。
 これらを貫くのは、「制服組」が独自に国家意思決定過程に関与できるシステムへの欲求である。①は常時首相の傍に制服の幹部自衛官が控えることを、②は防衛省の政策全般に「制服組」が関与できるようになることを、③は「制服」トップの統合幕僚長が直接に陸・海・空各自衛隊を統括指揮できるようになることを、それぞれ意味する。現在は文民が担っている領域への「侵食」を図っているのである。
 ④についてはご丁寧にも、国会で自衛官への「責任追及をする」ことのないようなルールづくりを提起している。これは国会で他の官僚に対するように自衛官を批判することを封じるもので、自衛官を特権化するものである。政府委員や参考人とは別種の資格で国会に出席させようとでもいうのだろうか。

 今回の提言を読むと、これを作成した小委員会は「統帥権の独立」の復活を目指しているのではないかという疑念が拭えない。「統帥権」とは大日本帝国下の慣行で、軍隊の「統帥」は天皇が独占する大権で、天皇を輔弼する責任をもつ国務大臣ですら関与できないというシステムである(「制服」のトップは内閣とは別に独自に天皇に直接進言できた)。この慣行が軍隊の政治化と暴走を招き、泥沼の戦争へと国家を引きずり込んだことはよく知られている通りである。
 現在は天皇の統帥大権はないが、首相と「制服」の間に文民が入らず、常時直接報告・進言できるルートの設定は、「素人」の首相が軍事情報を独占する「制服」に囲まれて「制服」の言いなりに動く可能性を想定せざるをえない。文民統制を弱め、「軍事」の暴走を可能にする非常に危険な動きである。

 この提言は他にも自衛隊の階級呼称を旧軍隊に戻すことや(それを「国民も親しみのある階級呼称」と言及しているのが失笑ものだが)、下士官クラスへの叙勲を要求するなど、同じ要求を文民の公務員がしたら袋叩きに遭いそうなずうずうしい内容も含まれる。「改革」の名を借りた「おねだり」でしかない。
 「裏」の不祥事については、わずかに「自殺者の増大などへの対応のためのメンタルヘルス」に言及するのみ。心身屈強なはずの自衛官の自殺が増大しているのは、裁判所も認めた「戦闘地域」での過酷な任務や日米軍事一体化の影響による非人間的な訓練の強化が原因と考えられるが、そうした構造的原因には一言も触れていない。

 改めて自民党には防衛省・自衛隊の「改革」を任せることなどできないことを露呈したと言えよう。相次ぐ不祥事の実態の究明もせずに、自衛官の権限強化を要求するなどあまりにも虫のよすぎる話である。

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by mahounofuefuki | 2008-04-24 23:42


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