OECD「対日経済審査報告書2008」について

 経済協力開発機構(OECD)が2008年の「対日経済審査報告書」を発表した。
 新聞報道では正規・非正規雇用差別の是正を促進したことが強調されていたので(たとえば東京新聞2008/04/07夕刊)、てっきり新自由主義路線の修正を促す内容なのかと思って原文の要旨を読んだらたまげた。まるで竹中平蔵氏と与謝野馨氏のそれぞれの議論をつまみ食いしたような内容だったからだ。

 全6章から成る報告書のうち、労働市場について述べているのは最後の第6章だけで、後は専ら規制緩和と財政再建の立場からの「庶民の痛み」を伴う提言ばかりである。
 その労働市場改革の提言も非正規雇用の増大が「公平と効率の面で深刻な懸念を惹起している」としつつ、「正規労働者の雇用弾力化」(正規雇用の保護規制の柔軟化)を主張しており、非正規雇用待遇の正規化=「引き上げ」による均等化ではなく、正規雇用待遇の非正規化=「引き下げ」による均等化を容認している。これでは雇用待遇差別の根本的解消につながらないことは言うまでもない。

 財政再建問題については依然として「均衡財政のドグマ」(東京大学大学院教授の神野直彦氏による)にはまった徹底した歳出削減を提唱している。
 公共投資や公務員人件費の削減を高く評価し、さらなる削減を求めている。公共投資の減少が地方経済を疲弊させ、公務員人件費の削減が非正規雇用の公務員を増やし、生活を不安定にさせると同時に行政サービスの低下を招いたことは、もはや常識の範疇に含まれるのにもかかわらず。
 また、公的医療支出を抑制するために、「民間部門の関与をこれまでより広く認めるといった規制改革」を要求している。現在の医師不足や国民健康保険の赤字財政の原因は公的医療支出の減少にあることを全く理解していない。これが「国民皆保険制度」の崩壊をより悪化させることも言うまでもない。

 税制については、所得税と消費税の増税を促す一方、法人税率の引き下げを提起している。
 消費税増税の問題性は当ブログでは何度も書いているのでここでは繰り返さない。OECDは法人税の課税ベースを拡大した上で税率の引き下げを提起しているが、これは実質的には中小企業の負担を増やし、大企業の負担を減らすことを意味する。現在、法人収入が史上最高とはいえ、大企業と中小企業の格差は拡大している。大企業からのコスト削減要求のために中小企業の経営はいっぱいいっぱいであり、その上税制でも不公正を拡大すれば、とても立ち行かない。
 OECDは財政再建路線と法人税引き下げの矛盾について「法人税率引き下げによる税の減収は、投資の伸びと企業部門の拡大といったサプライサイドからの効果によって一部は相殺できる」と、相殺効果が「一部」にすぎないことを認めている。

 サービス部門の競争強化を要求しているのも問題だ。大規模小売店舗の「参入障壁」の排除、電力やガスのような公共企業間の競争促進、空港の民営化、教育・医療における民間委託の推進などを求めている。郵政民営化のプロセスも計画通り進めるべきだと主張している。ここまで来ると、もはや経済財政諮問会議や規制改革会議の議論と変わらない。

 評価できるのは「死亡件数の4%しか課税されない相続税を強化する」という部分くらいである。少なくとも今回の報告書に関して新聞報道は当てにならない。OECD報告書を雇用待遇問題の資料として使うのは危険を伴うことを指摘しておきたい。

【関連リンク】
Economic survey of Japan 2008-OECD
OECD対日経済審査報告書2008年版*PDF
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by mahounofuefuki | 2008-04-08 13:10


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