JR岡山駅で少年が列車待ちの人を線路に突き落して殺した事件。
今や若者の犯罪に関する報道は大衆ののぞき見趣味を満たし、日常の鬱憤を晴らせる「公認の敵」を提供するための「娯楽」になっているのが現状であるが、私は被害者をダシにして「弱そうな加害者」(この国のチキン大衆たちは「強そうな加害者」には沈黙する。米兵とか、「ヤクザ」とか、自民党議員とか)をバッシングする趣味は全くないので、本来ならこんな事件はスルーするところである。 しかし、この岡山の事件ではどうしても気になることがあるので発言せざるをえない。それは次の個所である(太字強調は引用者による、以下同じ)。 (前略) 成績はクラスで1、2番。「経理関係の資格を取りたい」と話していた。進学希望だったが、「大学に通うお金がない」と言っていったんあきらめたという。その際に成績が少し下がったものの、落ち込んだ様子はなかったという。年明けには担任が就職先の紹介を提案した。しかし、「自分で働いてお金を稼いで大学に行きたい」といって断ったという。(後略) (朝日新聞 2008/03/26 15:05)要するに、成績優秀だったのに家庭が貧乏なため大学進学を断念したのである。真偽不明だが東京大学を志望していたという情報もある。「貧困と格差」の拡大により貧困層が学業を放棄させられたり、進学を断念させられる事例が近年増加しているが、岡山の少年もまさに「金持ち優遇」の新自由主義の犠牲者なのである。 マスメディアは「殺せば刑務所に行ける」「誰でもよかった」という点を強調して犯行の卑劣さを印象付けようと躍起だが、これらは「刑務所に入りたくなるほど社会に疎外感を持っている」「殺す相手が誰でもよいほど社会全般を憎んでいる」という意味であり、貧しく恵まれない(しかし奴隷の身に甘んじるほどの諦念はない)若者が幸福に生きる権利を日本社会が閉ざしたことを読み取らねばならない。 私がこの少年の表出されない悲鳴に対し敏感に反応するのは、自分が下層のブルーカラーの子として生まれ、しかしながら幾許の「努力」と「運」で「一流大学」に進むことができた幸福な過去を有しているからに他ならない。時と場所が違えば私は彼だったかもしれないが故に、とても他人ごととは思えないのだ。 報道では彼が中学校時代にいじめに遭った経験があるとか、キレやすくて「殺してやる」と叫んだとか、彼の履歴から「犯罪者」になる必然性を探そうと躍起だが、そんな経験は誰にでもある。少なくとも私はいじめに遭ったこともあれば、キレて教室で暴れて備品を破壊したこともあるが、殺人を行ったことも行おうと思ったこともない。今後も決してないだろう。 犯罪の原因は彼の履歴にはない。それは日本社会の仕組みの中にこそある。この国が教育費を全額国庫で負担するような福祉国家だったら、彼が今回のような凶行に及ぶことはなかったと断言できる。この事件の「真犯人」は、貧乏人が進学できないような不平等社会を作り上げた財界・政府・自民党・公明党などのハイエナたちであり、それらを支持した有権者である。 罪なくして殺された被害者は本当にあわれだ。被害者は竹中平蔵や小泉純一郎や宮内義彦や奥田碩や御手洗冨士夫や八代尚宏らの罪を背負わされて死んだのだ。彼は地方公務員だったという。今は「かわいそうな人」として同情を集めているが、場面が異なれば大衆の「公務員バッシング」の餌食になっていたかもしれない。弱者が弱者を殺す。「四角いジャングル」。罪と罰。絶望。線路に突き落した者、線路に突き落された者。線路に突き落されるべき者。 被害者の父親の言葉が胸に響く。 (前略)「はらわたが煮えくりかえる思い。孫たちは泣くばかりで、どう慰めていいのかわからない。このような事件は息子で最後にし、少年は罪を償って社会復帰したら、世の中のためになるような人になってほしい」と話した。(後略) (読売新聞 2008/03/26 16:04)事件直後で相当なショックがあるだろうに、少年に罪を償う機会を与えようというのである。「少年を死刑に」と叫ぶ方がよほど楽だろう。この言葉が少年に届いているだろうか。 「真犯人」たちに問いたい。あなたがたは「世の中のためになるような人」かと。おそらく厚顔無恥な彼らは「世の中のために働いている」と答えるのだろう。彼らの「世の中」は六本木ヒルズの中なのだろうか。 涙でディスプレイが曇って見える。怒りと悲しみで今宵は眠れそうにない。
by mahounofuefuki
| 2008-03-27 00:22
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