高まる「平等」「安定」志向~「勤労生活に関する調査」を読む

 労働政策研究・研修機構が「第5回勤労生活に関する調査」の結果を発表した。
 この調査は勤労生活に対する意識について、1999年から同一の調査法(訪問面接)と同一の質問項目で継続して行っていること、調査対象がすべての世代、就業形態(労働者だけでなく、経営者や自営業者なども含む)にわたっていることに特徴があり、ほぼ日本社会を構成する人々の縮図と言ってよい。今回の調査は2007年に行われた。
 詳細はweb上で公開された資料を参照していただきたいが(下記関連リンク参照)、私が注目するのは次の4点である。

「平等社会」への志向が高まった。
 今回の調査結果で何よりも注目すべきは、これからの日本が目指すべき社会についての問いで、初めて「貧富の差が少ない平等社会」がトップに躍り出て(43.2%)、「意欲や能力に応じ自由に競争できる社会」(31.1%)を抜いたことである。1999年から2004年までは一貫して「競争できる社会」がトップで4割を超えていただけに、この数年で人々が新自由主義イデオロギーに嫌気を持ち始めたことをはっきりと実証している。

「終身雇用」「年功賃金」への志向が高まった。
 日本型雇用慣行への問いでは、「終身雇用」への支持が初めて8割を超えた(86.1%)。「年功賃金」への支持も初めて7割を超え(71.7%)、旧来の年功序列賃金体系への郷愁が強いことを如実に示している。ここでも成果主義を重視するイデオロギーが完全否定されつつあることがわかる。
 また、キャリア形成に関する問いでも、1つの企業に長く勤めキャリアアップするルートへの支持が過去最高となり(49.0%)、「独立して仕事をするコース」への支持は過去最低となった(11.7%)。もはや誰もが起業できるという「夢」が単なる欺瞞にすぎないことに気づき始めていると言えよう。「夢追い」型から「安定・堅実」型への変化を読み取れる。

「自由になるカネ」と「自由になる時間」への欲求が高い。
 「終身雇用」「年功賃金」を志向する一方で、企業の福利厚生の充実よりも給与を増やして欲しいという見解は一貫して増え続けている(64.5%)。これはますます企業福祉への不信が高まっていることを示すが、おそらく国家の福祉への不信も高いだろう。「平等」「安定」を志向しつつも、公的な福祉給付への不信は依然として強く、それよりは給与を増やして欲しいと考える人々が多いようである。
 また、どのような時間を増やしたいかという問いでは、「趣味やレジャーなどの自由時間」「家庭生活に費やす時間」が多く、「ボランティアや町内会活動など社会活動」はかなり低い。ここでも「公的なもの」への忌避感は強く、自己の個人生活の充実を至上とする傾向が強いことが窺える。
 これらから導けるのは「自由になるカネ」「自由になる時間」への渇望である。北欧型福祉国家の大前提である「社会参加による高負担・高福祉」は現状では受け入れられる見込みが低いことがわかる。

職場の人間関係に苦労している。
 勤務先を選べるとしたら何を最も重視するかという問いでは、「職場の人間関係」がダントツで高く(31.7%)、「仕事と家庭生活の両立支援」(18.0%)、「賃金」(13.6%)よりも上位である。これは職場の人間関係に苦労している人々が多いことを示す。賃金や社会保障の問題とは異なり、職場の人間関係の悩みは正社員も非正社員も、あるいは管理職やもしかすると経営者も共通して抱えているとみられる以上、この問題はもっと社会問題として取り上げられてしかるべきである。

 今回の調査から改めて新自由主義による競争社会がもはや支持されていないことは明らかになった。人々の「安定」志向を簡単には止めることができないだろう。一方で、「公」への不信が強すぎて、福祉国家確立の前提条件も依然として存在しないことも読み取れる。大阪府知事選挙のように「公」への不信を前面に押し出した場合、実際の投票においては「安定」を志向しながら新自由主義を支持するという矛盾した行動をとる可能性が依然として強い。
 福祉国家を目指すにあたっては、いきなり「高負担・高福祉」を提示するのではなく、まず所得再分配により「自由になるカネ」へ、長時間労働の法的規制の強化により「自由になる時間」への欲求に応える必要があることを示唆している。消費税の社会保障目的税化などの議論では、新自由主義への対抗軸にならないことはここでも明らかだろう。

【関連リンク】
「第5回勤労生活に関する調査」結果*PDF
独立行政法人 労働政策研究・研修機構
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by mahounofuefuki | 2008-03-25 12:15


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