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「道州制」は新自由主義の隠れ蓑

 日本経団連が18日付で「道州制の導入に向けた第2次提言 -中間とりまとめ-」を公表した。昨年の第1次提言に続くもので、政府が策定を進めている「道州制ビジョン」を先取りしたものと言えよう。
 「道州制」については「地方分権」を具現化するものとして、何となくプラスのイメージをもって語られることが多く、新自由主義の「構造改革」路線に批判的な人や福祉国家派でも支持する場合が多い。しかし、今回の提言を読む限り、「道州制」も「地方分権」も弱肉強食の新自由主義の隠れ蓑にすぎないと言わざるをえない。

 経団連は「道州制」による地方自治体の再編像を次のように描いている(太字強調は引用者による、以下同じ)。
① 現在の都道府県を廃止し、これに替わる広域自治体として全国を10 程度に区分する「道州」を新たに設置する。
② 地方公共団体を道州および市区町村などの基礎自治体という二層制とし、道州、基礎自治体それぞれの自治権を活用し、真の住民自治を実現するために必要な権限と財源もあわせて備えさせる。
 47ある都道府県を10程度に統合し、市区町村も1000程度に統廃合するべきだという。今回の提言では「今すぐ着手すべき」改革として、国の出先機関の「地方支分部局の職員定数の大幅削減」を挙げており、統廃合を通して公務員を削減しようという意図が窺える。
 行政不信の根深い人々は、行政の規模や人員を縮小・削減すると聞くと無条件で賛成しがちだが、現在の日本は世界の中でも「国民」に占める公務員比率が最も低い水準の国である。公務員の数が減るということは、それだけ行政サービスが質量ともに低下することを意味する。医療や教育や福祉をはじめ行政の役割はむしろ増大している。行政がきちんと住民のニーズに応えようとするならば、公務員は減らすどころか大幅な増員が必要なのが現実だ。

 経団連は「道州制」導入の前提として、9万人以上の公務員の民間への転出(要するに解雇)すら提言しているが、労働市場に公務員出身者が溢れることは、結局雇用の需給において非公務員の立場を弱くする。もっとわかりやすく言えば、就職において公務員出身者が非公務員のライバルになるということである。しかも公務員の民間転出は一種の「天下り」とも言える。「公務員を減らせ」という主張は「公務員を天下りさせろ」と言っているようなものである。
 ついでに言えば、現在公務員の世界でも非正規雇用が増大している。特に地方出先機関や地方自治体に多い。真っ先にクビを切られるのは彼らである。非正規公務員は民間に行っても新卒でないので非正社員にしかなれない。労働市場における非正規雇用の増加は「貧困と格差」の拡大に手を貸す愚行である。

 都道府県や市町村の数が減ると、それだけ住民からそれらが遠くなる。単に役所に用があって通う場合の距離が長くなり不便になるというだけにとどまらない。役所が遠くなることで地域住民の声が届きにくくなり、役所の方も住民の「顔」が見えにくくなる。いくら権限や財源を譲渡しても、住民が見える所でそれらを行使できなければ意味がない。「道州制」は「地方分権」を促進しても「地方自治」を破壊するのである。
 「道州制」が新自由主義の隠れ蓑であるということは次の箇所に最もよく現れている。
道州制の導入に伴い国、道州、基礎自治体の役割を定める前に、これまで官が担ってきた公の領域において民が活動できる範囲を拡げ、小さな政府、民主導の経済社会運営を目指すことが重要な課題となる。そのため、官の役割をゼロベースで見直し、規制改革の推進官業の民間開放、PFIによる事業実施などを徹底する。あわせて、官の肥大化を防ぎ、公務部門においても生産性、効率性の向上を図る観点から、公務員制度改革をはじめとする各種の行政改革を断行することが必要である。
 まさに小泉政権が行った「構造改革」と同じ、「何でも民営化」「企業やりたい放題」の公認である。「規制緩和」が資本による労働者からの搾取強化を促進し、「効率性」が極端な競争原理を導入して人間をモノのように扱うことを進めたのが実情である。それなのに「構造改革」で疲弊しきった地方に、今度は「道州制」という名のムチを与えようとしているのだ。

 経団連の提言は「道州制」のメリットとして、防災・消防体制の強化、警察再編による治安向上、子育て支援と人材育成、地域医療・介護の充実、独自の産業振興と雇用の創出、観光振興などを挙げているが、それらは「地方分権」とは無関係である。国がきちんと予算を配分すれば「地方分権」などせずとも実現できることばかりである。
 「国・地方あわせて800 兆円近い債務を抱えるわが国の行政が、このままの体制を維持できると考えるのは非現実的」と言うが、日本は外国に対して債務を抱えているわけではない。国の借金は国債保有者に課税を強化すればすぐにでもなくなる。地方の債務は専ら国に対するもので、これも国の決断でどうとでもなる。その方が都道府県を10程度に減らすという案よりよほど現実的だ。そもそも債務を増やさせたのは、経団連を含む財界への利益誘導が主因である。経団連にまるで他人事のように言う資格はない。

 経団連の提言は他にも「現在12 府省ある中央省庁を半数程度に解体・再編する」「地方交付税と国庫支出金の廃止」「地方消費税の活用」「地方債の起債を自由化」など無茶苦茶な案が目白押しである。ツッコミどころが多すぎて今回だけではとてもまとめられないので別の機会に譲るが、とにかく「道州制」は日本社会を崩壊させる愚策であることを改めて強調しておきたい。


《追記 2008/03/24》

 政府の道州制ビジョン懇談会が、中間報告を総務大臣に提出した。2018年までに道州制を導入するよう求めている。主旨は経団連の提言とほぼ同じで、同懇談会の性格を如実に示している。
 今後、新自由主義政策は「地方分権」「道州制」の皮をかぶって行われるだろう。繰り返しになるが、それは地方切り捨ての「構造改革」路線の継続である。注意しなければならない。

【関連リンク】
社団法人 日本経済団体連合会
道州制の導入に向けた第2次提言 -中間とりまとめ-*PDF
道州制ビジョン懇談会-内閣官房
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by mahounofuefuki | 2008-03-18 21:17


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