「ほっ」と。キャンペーン

再度答える。「正社員の解雇自由化」は社会の崩壊を招く。

 経済系出版社ダイヤモンド社の論説委員である辻広雅文氏が、正社員と非正社員の待遇差別を縮小するためには正社員の解雇自由化が必要だという珍説を公表したことに対し、当ブログは2月5日付エントリで全面批判を行った(「非正社員が正社員になりたかったら、正社員の解雇自由化に賛成しろ」という悪魔の囁き参照)が、その辻広氏がまたしても2月20付のコラムで持論を展開していた。
 再度問う。正社員のクビを切れる改革は本当にタブーなのか?|辻広雅文 プリズム+one|ダイヤモンド・オンライン

 辻広氏によれば前の記事には「轟々たる批判、非難が寄せられた」そうで(当り前だ!)、まずはそれらを整理し再反論を試みているのだが、いずれもトンチンカンで全く答えになっていない。
 第1に正社員と非正社員が入れ替わるだけでは、労働待遇の不均等自体は解消されないという批判に対しては、「労働市場の流動化を促し、人材の適材適所、最適配分が進み」「再挑戦の機会も多くなり、希望を失わない」としているが、これは再挑戦の機会があれば差別はあってもよいという意味である。
 しかし、再挑戦の機会があろうがなかろうが、差別を受けること自体が「希望」を失わせていることが問題なのであって、彼には差別そのものを問題にする意識は全くない。だいたいほとんどの企業が非正社員としての職務経験を全く評価していないという事実をどう考えているのか。仮に辻広氏の言う通りの方法を実施しても、中高年の非正社員を正社員にする企業などまずないだろう。

 第2に正社員の待遇を引き下げるのではなく、非正社員の待遇を引き上げることで均等待遇を実現すべきであるという批判に対しては、「企業に弱者救済の圧力をかけ続けたら、経営者はコスト増を恐れて、海外に拠点を移してしまいかねない」と新自由主義者お得意の主張を行い、「改革の矢は、非正社員を実態的に搾取している既得権者の正社員に向かわざるを得ない」と再び正社員=既得権益という構図を示す。
 まず「海外移転恐怖症」についてだが、なぜか「海外に移転する」ことのコストを度外視している。タダで海外に移動できるわけではない。単に個人の富豪が税金対策で海外に移住するのとはわけが違う。企業が拠点を定める時に考慮するのは労働コストばかりではない。日本の企業が全く日本に拠点を置かないということは考えにくく、「海外移転恐怖症」は根拠のない脅しにすぎない。
 次に、これは前のエントリの主張の繰り返しになるが、正社員は搾取者でも既得権者でもない。「非正社員を実態的に搾取」しているのは経営者と投資家であって、正社員ではない。その証拠にこの10数年、非正社員が増加しているが正社員の所得も減り続けている。もし正社員が非正社員を搾取しているのならば、正社員の所得が増えていなければおかしい。問題は労働分配率の低下にあり、そこでは正社員も非正社員も強欲な資本家に搾取されているのである。

 第3に実際に正社員の解雇自由化を実施したら、結局は非正社員が増えるだけだという批判に対しては、「労働法制を自由化したままメンテナンスをしなかった80年代、90年代の米国では、経営者が足元の業績を重視し、近視眼的なレイオフが頻発する一方で、いっこうに生産性が上がらないという二重苦に見舞われた」と批判を認めるものの、「米国でも反省を生かして、新しい労働ルール作りが始まっている」と強弁する。
 言葉は悪いが「こいつは正真正銘のバカ」と思ったのは、この部分である。アメリカの悲惨な労働環境は80年代、90年代の昔話ではなく、現在進行形の問題である。近年アメリカの労働問題を告発する良書が何冊も出ているが、この男は全く読んでいないのだろうか。労働法制の「自由化」の結果は長時間労働、無償残業、低賃金、潜在的失業の増大であり、過労やストレスによる病気や自殺、貧困に起因する犯罪、競争の激化による相互扶助機能の低下など社会の崩壊を招く
 社会が崩壊してでも経済成長を追い求めるというのが新自由主義であった(特に堀江貴文氏はそれを自覚していた)。しかし、それが結局失敗に終わったことはもはや周知の通りである。社会が崩壊しては経済成長などあり得ないのだ。太田弘子経済財政担当大臣が「もはや日本経済は一流ではない」と言ったが、その原因は新自由主義的政策のせいである。今は社会の持続可能性の回復こそ必要であり、労働法制の弱体化はそれに逆行することは言うまでもない。

 辻広氏の再反論の「前置き」部分に対する再々反論だけでずいぶん紙幅を使ってしまった。彼は前述の第3の問題を受けて、国家による労働法制を解体し、労使間の話し合いで新たな雇用ルールをつくるべきだと主張しているのだが、その問題は私が現在注視している労働者派遣法改正問題とも深く関係するので、日を改めて詳述したい。権力関係にある使用者と労働者が公的規制なしに対等の話し合いなどできるはずもなく、辻広氏の主張は「夢物語」にすぎないということだけは指摘しておく。

【関連記事】
東京新聞「ハケンの反撃」を読んで
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-02-24 16:41


<< 米兵の暴行事件、イージス艦事件... 「せんたく」の唱える「地方分権... >>