東京新聞「ハケンの反撃」を読んで

 マスメディアが社会問題を報じる際、たいてい「こんなひどいことが起きている」「表向きはそうだけど実際はこうだ」という実態の暴露と告発に終始しがちで、もちろんそれは十分に意義があるのだが、取り上げる問題があまりにも深刻だと、個々人の力ではどうにもできないという無力感や絶望感を深める役割を担ってしまうことも少なくない。
 それを打破するためには、問題を実際に解決した実例や解決する希望が見出せる道筋を提示するしかないが、その点で東京新聞が2月10、11、14、17日(日付は電子版による)の4回にわたって連載した「ハケンの反撃」は、その名の通り派遣労働者の「反撃」の「勝利」の実例を紹介し、希望を与える好企画だった。
 ハケンの反撃<1> 広がる連帯の輪 武器はユニオン(東京新聞2008/02/10)
 ハケンの反撃<2> 『手口をあばく』 もう だまされない(東京新聞2008/02/11)
 ハケンの反撃<3> “サイバー連帯”進化(東京新聞2008/02/14)
 ハケンの反撃<4> 勤務記録で対抗(東京新聞2008/02/17)
 昨年来「貧困」「格差」「ワーキングプア」の実態は広く報道され、問題の存在自体は社会の共通認識になった以上、これから必要なのはどうすれば問題解決の糸口をつかめるか模索することであり、マスメディアにはこうした報道をどんどん続けてほしい。

 「ハケンの反撃」が伝える「希望」は労働運動の「新しいカタチ」である。旧来の正社員中心で労使協調型の企業内労働組合ではこぼれおちてしまう非正規労働者による連帯の動きが始まっている。

 昨年、人材派遣大手フルキャストの個人加盟労組フルキャストユニオンが不当な給与ピンハネ分の全額返還を勝ち取ったことで、他の派遣会社でも返還を求める団体交渉や労基への申し立てが広がっている。グッドウィルやエムクルーの動きについては以前当ブログでも紹介した。日雇い派遣に限らず、個人加盟型のユニオンは急速に増えており、全国ユニオンによれば現在約3300団体あるという。
 記事が紹介したマイワークのユニオンの委員長は50代の元自営業者で、「派遣=若者」という世間一般のイメージとは異なり、派遣労働者には「構造改革」で失業した元正社員や倒産・廃業した元自営業者も少なくないことを示すと同時に、社会経験を積んだ「人生のベテラン」の役割が労働運動においても必要であることを示唆している。

 こうした動きに「格差社会」の「共同正犯」(by佐高信氏)である連合も重い腰を上げて、昨秋「非正規労働センター」を立ち上げ、今春闘では非正規労働の待遇改善、特にパート労働者の賃上げを要求している。「正社員中心の壁を越えていこうという連合の自己改革宣言」が単なる掛け声倒れにならないようにしてほしい。

 「ハケンの反撃」はインターネットを通した「サイバー連帯」の可能性も伝えている。とにかく現代は「団結」や「連帯」を敬遠する意識が強く(そういう私も個別の問題に絞らない連帯を嫌う傾向がある)、それ以上に表立って労組になど加入して会社側から攻撃を受けることを何よりも恐れており、労働運動の敷居は高い。ここではサイバーユニオンの草分け「ジャパンユニオン」が紹介されているが、「匿名性や双方向性というサイバーの特徴で、労組加入の垣根が低くなっている」というのは注目すべきだろう。
 また私も最近アンテナに加えた労組専門動画投稿サイト「ユニオンチューブ」は、実際の団交の様子や労働関係のイベントの映像を全世界から見ることができる。特に団交は労組の最大の見せ場であるにもかかわらず、マスメディアが報道することはまずないので、その記録は貴重だ。それぞれの職場で孤立している労働者に労組へ加入するメリットを伝えていくことが必要だろう。

 「希望は、連帯。」というにはまだまだ前途多難であるが、この10年余りで労働基本権は極限まで失墜し、資本主義初期の工場法制定前の奴隷労働同然になっている現状を変革するエネルギーは、これら新しい労働運動からしか生まれないだろう。

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【関連リンク】(「ハケンの反撃」に登場した団体など)
My work Union 【マイワーク ユニオン】
フルキャストユニオン HP
フェアワーク つながるネット
全国ユニオン
ガテン系連帯-派遣・請負者の為のNPO-
GU-NET -労働組合 東京ユニオン
インターネット労働組合ジャパンユニオン
労働相談センター・スタッフ日記
NPO法人労働相談センター
首都圏青年ユニオン
UnionTube
NPO POSSE
NPO法人・職場の権利教育ネットワーク
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by mahounofuefuki | 2008-02-18 21:02


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