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社会保障の財源が消費税でなければならない理由はあるのか

 以前、北海道大学大学院教授の山口二郎氏の消費税増税を含む財政論をブログで批判したことがあったが、その要点は氏が歳出の公平性は重視するのに、歳入の公平性を軽視していることだった。そうした批判は方々から出ているようで、『週刊金曜日』2月1日号で氏が反論していた。社会保障の財源がなぜ消費税でなければならないのかという問いには全く答えず、はっきり言って失望させられた。
 『金曜日』の記事は山口氏のブログに転載されている。
 YamaguchiJiro.com|08年2月:どのような日本を造るのか

 「私は、西ヨーロッパ型の福祉国家モデルを日本も採用すべきだと考えている。また、環境保護のためには経済成長をある程度抑制しなければならないとも考えている。日本の現状を見て、財務省と経済財政諮問会議およびその周辺にいるいかがわしいエコノミストの言う歳出削減路線が、社会保障を壊し、格差を広げたと憤っている」(太字は引用者による、以下同じ)という事実認識と目指す方向性に異論はない。歳出の総量を削減する必要は全くなく、現在の「小さくなりすぎた政府」を「大きな政府」とまでは言わずとも「ほどよい政府」くらいにはすぐにでも拡大しないと、日本社会の持続可能性は消滅すると私も考えている。
 問題は次の箇所である。「先日も、札幌の市民派ローカル政党を支持する市民と話をしていて、医療、介護に行政が責任を持つならもっと税金を払ってもいいけれど、今の政府は信用できないから増税には反対だという、市民派がよく言う主張を聞いた。しかし、信用できる政府を作ったうえで増税に応じるなどという話は、百年河清を待つ類である。新自由主義者や財務省は、政府は常に信用できないものだから、いつも小さいままでいいのだと、この種の議論を逆手に取る」と、「信用できる政府」は決して生まれないというシニシズムを前提にした議論を展開するのである。
 私はその対話の席にいたわけではないので、実際のところどのような話だったのか不明だが、福祉国家への具体的な道筋と具体的な予算配分を明確に公約した政府のもとでなければ増税を容認できないというのであれば正論である。道路特定財源で在日米軍の将校用住宅を作っているような(しんぶん赤旗2008/02/02による)政府が、いくら口先だけで「社会保障を充実します」と言っても誰も信用しないのは当然だ。これまで負担増のたびに私たちは裏切られ続けた。実際に増税を先行して社会保障に使われなかった時(後述するようにその可能性が非常に高い)、山口氏はどうやって責任をとるつもりなのか。

 一方で、氏は「私は、今すぐ消費税率をあげろといっているのではない。所得税の累進性の回復や相続税の増税など、公平の観点から先にすべき増税が何種類かある」とも述べているが、まさにその点こそ現在直面している課題であり、なぜその主張を第一に掲げないのか疑問だ。たとえ「将来」と限定していても氏のようなオピニオンリーダーが消費税増税を口にすることが、いかなる政治的効果を与えるかを知らぬわけではあるまい。社会保障の財源が消費税である必要は何もない。所得税でも法人税でも相続税でも構わないはずだ。
 山口氏は「消費税増税による財政再建か、歳出削減による財政再建か」という議論にとらわれすぎているように思える。しかし、実態はこの両者に違いはない。その証拠に日本経団連をはじめ財界団体はさらなる歳出削減を主張すると同時に、消費税増税も唱えている。彼らの目論見は消費税増税によって企業減税の財源を作ることにある。こうした動きを粉砕するには「庶民増税か、金持ち増税か」という次元の異なる対立軸を提示することであり、それは氏のような影響力のある政治学者の仕事である。

 最近の「北欧」ブームも含めて、私が何よりも不安なのは、現在の貧困層を切り捨てた上での福祉国家構築の動きである。消費税が引き上がれば、貧困層の家計は大打撃を受け、年金や健康保険の保険料を負担できなくなり、社会保障制度の枠外にはじかれる。山口氏が唱えるようにいくら増税で医療も教育も無料にすると言っても、増税と社会保障制度の充実にはタイムラグが生じる。増税の瞬間に確実な社会保障給付が行われでもしない限り、貧困層は生存権を失う。
 実は福祉国家構築の最も手っ取り早い方法はまさにこれで、社会保障の負担ができずに給付を受けるだけの貧困層や高齢者を死滅させ、残った現役の中産階級以上の人々だけで「高負担・高福祉」を実現する。かつて北欧諸国がマイノリティーに対する断種政策を行ったように、あらかじめ「税を負担できず給付を受けるだけの存在」を消し去りたいのではないかという疑問が拭えない。「社会保障充実のための消費税増税」というレトリックの影にそんな企図を読み取るのは穿ちすぎだろうか。
 今、何よりも必要なのは、所得格差の縮小である。所得の平等度を高めない限り、「高負担・高福祉」など夢のまた夢である。消費税の引き上げがそれに逆行するのは言うまでもない。

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by mahounofuefuki | 2008-02-03 17:03


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