この国の権力関係の真実をまざまざと見せつけられる出来事である。
トヨタ自動車の社員の過労死を豊田労働基準監督署が労災認定せず、亡くなった社員の妻が不認定の取り消しを求めた訴訟は、名古屋地裁が労災を認定する判決を下し、国が控訴を断念して判決が確定したことは、以前当ブログでも紹介した。この判決はトヨタが業務と認めていない「クォリティーコントロール(QC)活動」等を業務と認定し、残業時間に加算する画期的な内容だった。 判決が確定した以上、当然判決が認定した労働時間に沿って労災保険の遺族補償金が支払われるかと思いきや、豊田労基署はこの期に及んでも判決を無視し、当初国側が主張していた労働時間分しか算定していないという。原告は昨日(1月9日)、舛添要一厚生労働大臣と面会し、地裁判決が認定した残業時間に沿った支給を求めた。原告が言うように「行政が司法の判断を無視」(共同通信 2008/01/09 18:39)した暴挙であり、この国の労働行政の貧弱さを絵に描いたような問題だ。 豊田労基署が裁判所を無視してまで残業時間を過少に算定する理由については、毎日新聞(2007/12/27朝刊)の「記者の目」が次のように示唆している(太字は引用者による)。 (前略) 労働基準法第36条に基づく月間残業時間の上限は45時間。通常は超過すれば違法残業だ。トヨタ過労死弁護団の田巻紘子弁護士は「労基署には、遺族救済のため保険金を適正に算定し、超過残業には是正指導を行う職権があります。残業106時間を会社に認めさせて、役割を果たすべきです。たとえ相手が世界のトヨタであろうと遠慮は許されません」と語る。判決通り月間残業時間を106時間とすると、トヨタは労基法違反になる。それ故に「トヨタが違法残業を強いている」という状況を隠蔽するために、残業時間をぎりぎり「適法」の範囲内に作為したというのである。労基署と企業の癒着ぶりは各地で噂があり、トヨタ側が労基署の幹部に便宜を提供していたというのも、いかにもありそうな話である。 毎日新聞の記事は「豊田労基署には会社寄りの印象もぬぐえない」と慎重な言い回しをしているが、企業城下町・豊田市の実情を考えれば、労基署もトヨタ本社を頂点とする地域の支配構造に組み込まれており、とてもトヨタに歯向うことなどできないというのが真相だろう。下手にトヨタの違法行為を指導して、暴力団や右翼団体による嫌がらせを受けたり、自宅が放火されたり、場合によっては偽装自殺で消されたりするリスクを負うよりは、せいぜいゴルフ割引券でも貰ってうまく立ち回った方が「お利口さん」ということなのだろう。たとえ表面化しても戒告(免職や停職や減給と異なり実害なし)で済むのならなおさらだ。 一連のトヨタをめぐる問題は、この国の企業社会の闇を浮き彫りにしている。昨年末にはトヨタ自動車相談役の奥田碩氏が内閣特別顧問に任命されるなど、政府とトヨタの癒着ぶりはますます際立っている。労働行政が真に独立性と実効的な指導力を有することができるよう知恵を絞らねばなるまい。 《追記 2008/01/13》 当記事に関して複数の方々より、名古屋地裁判決が認定した残業時間には「QC活動」は含まれていないのではないかというご指摘があった。この訴訟では原告側は死亡前1か月間の残業時間を144時間と算定し、被告の国(労基署)は45時間と算定した。地裁の判決は労災認定にあたって「確実な」残業時間を106時間と認定し(これはトヨタ自動車堤工場の人事担当者が算定した114時間よりも少ない)、確かに小集団活動に含まれると考えられる時間の一部を残業時間に加算していないものとみられる(判決文の全文を入手していないので確認はできないが)。 しかし、それでも「創意くふう提案及びQCサークル活動は、本件事業主の事業活動に直接役立つ性質のものであり、また、交通安全活動もその運営上の利点があるものとして、いずれも本件事業主が育成・支援するものと認識され、これにかかわる作業は、労災認定の業務起因性を判断する際には、使用者の支配下における業務であると判断するのが相当である」と判断して、国や会社側の証言を採用しなかった点で、地裁判決の画期性を損なうものではないと私は考えている。 当記事はことのほか反響があり、改めて企業の理不尽な労務管理や過労死に対する関心の高さを痛感した。 なお関連リンクを追加した。 【関連記事】 相変わらず多い残業代不払い 「過労自殺」は企業による「殺人」である 企業による「殺人」 トヨタ過労死訴訟で画期的な判決 「生きのびるための労働法」手帳 トヨタ過労死訴訟で労災確定 【関連リンク】 MyNewsJapan-マスコミが広告欲しさに書けない、本当のトヨタ 全トヨタ労働組合(ATU) 愛労連(ブログ):カイゼンの自主活動は残業<長文> 愛労連(ブログ):桝添厚労省が調査約束*表題は原文ママ ※このブログはトラックバック承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
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