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大阪府知事選挙告示を前に

 大阪府知事選挙は明日(1月10日)告示されるが、その行方は混沌としている。
 現在のところ立候補を表明しているのは、弁護士の梅田章二(うめだ・しょうじ)氏、元大阪大学教授の熊谷貞俊(くまがい・さだとし)氏、タレントの橋下徹(はしもと・とおる)氏の3人(正式表明順)だが、ほかにも立候補があるとの報道もあり、選挙戦の見通しは不透明である。
 当初、橋下徹氏は自民・公明両党の推薦を求めていたが、結局自民党は大阪府連の推薦、公明党は大阪府本部の支持にとどまり、両党本部は推薦・支持を見送った。毎日新聞(2008/01/08 19:46)によれば、自民党の選対幹部が「推薦しない方が、無党派層の取り込みに有利だ」と述べたと言うが、実際は与党内に橋下氏の過去の暴言や狂信的な体質へのアレルギーがあることや、大阪の財界主流が民主・国民新両党推薦の熊谷貞俊氏に親近感を示すなど、足並みが崩れているからにほかならない。特に公明党は橋下氏の選対に人員を提供していないとも伝えられ、支持母体の創価学会は事実上の自主投票で臨むようだ。

 昨日(1月8日)、関西経済同友会主催の会員向け政策討論会と市民団体主催の公開討論会が開かれたが、相当激しい応酬が繰り広げられたようだ。
 産経新聞(2008/01/08 22:58)は「テレビのコメンテーターとして活躍してきた橋下氏のペースで、ユーモアを交えて会場の笑いを誘った」と、読売新聞(2008/01/09朝刊)は「コメンテーターとして活躍してきた橋下氏が攻め入り、熊谷、梅田両氏が負けじと対抗する展開が続いた」と、「討論慣れ」している橋下氏が場をリードしたように報じているが、一方で関西経済同友会の討論会では、与党支持のはずの財界人から橋下氏へのツッコミが相次いだという。特に春次メディカルグループ理事長の春次賢太郎氏は「『2万%出ない』はほかに表現方法があったはず。子どもがマネしますよ」と述べたという(日刊スポーツ2008/01/09)。出馬を全面否定していたにもかかわらず、人々を欺いて出馬を強行したことへの反発が未だ根強いことが窺われる。
 各報道を読む限り、どの候補も他の候補の弱点を突くのに終始し、冷静な議論は行えなかったようで、テレビやスポーツ紙のようなメディアが選挙戦をパフォーマンス合戦に煽っている現状の悪影響が出ているといえよう。言うまでもないことだが、選挙において重視しなければならないのは政策であって、それは机上のディベートからは決してわからない。

 今日の日本経済新聞の関西電子版に、関西経済同友会の公開質問状に対する3人の候補者の回答が掲載されており、各候補者の公約を知る上で非常に便利である。表層的な「舌戦」よりも文字の方がわかりやすく、確実である。
 大阪府知事選公開討論会、産業振興策で3候補火花|日経ネット関西版
 http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/news001930.html

 やはりというか、何というか、橋下氏の「投げやり」ぶりが際立っている。
 財政再建に関しては「出資法人を見直し、府有施設も市町村への移譲や売却を進める」、道州制に関しては「住民サービスにかかわる事業は市町村に移譲。府は各市町村に対する投資会社化する」、環境については「市町村レベルで対応してもらい、調整が必要な問題に府が関与する」ととにかく市町村への「丸投げ」を主張する。市町村の財政状況はほとんどどこも苦しく、こんな「丸投げ」を受け入れる余力など全くない。大阪府庁を小さくさえすればすべて解決という非常に安直な「小さな政府」論の地方版であり、市町村の自治を破壊するものだ。
 もっとひどいのは産業政策で、「行政に産業振興の立案能力はない」「民間企業にがんばってもらうしかない」と行政の責任を放棄してこれまた企業に「丸投げ」、関西国際空港の活性化については「伊丹空港とのすみ分けを政策的に行うしかないが、ほぼ不可能」と全くやる気なしである。某厚生労働大臣のように出来もしないことを口約束するよりはましという見方もありうるが、少なくともこれでは財界の支持は得られまい。

 逆に熊谷氏は財界を意識している。表現が抽象的なのも特徴だ。
 産業政策で「産学提携を中心としたネットワークつくり」を提起しているのが、いかにもアカデミズム出身らしいが、後は現状維持的という印象だ。財政再建については「業務の効率化と、施策の選択と集中で歳出削減を徹底する」と典型的な歳出削減によるコストカット論を提唱。関空問題では「関空と阪神港、彩都などを結ぶ物流ネットワークを構築。経済損失の原因の交通渋滞を緩和する」、環境については「府民と問題意識を共有し、事業所や家庭で温暖化ガス削減につながる取り組みを支援する」といかにも抽象的である。
 目立つのは道州制に関する項目で、熊谷氏は「国からの大幅な権限・財源移譲を前提に、議論したい」と道州制推進の立場を鮮明にしている。政策討論会では「府と市の合併に道筋を付けることが大事。関西州として一丸となるなら最後の府知事でいい」とまで言ったという(読売新聞、前記記事)。
 公開質問状への回答にはないが、「府民所得を50万円以上引き上げる」という公約も実現性への疑問はあるが異色と言えよう。

 梅田氏は「貧困と格差」の是正を明言している唯一の候補で、公共性重視の視点が際立っている。
 財政問題では「国に自治体への財源確保を強く求めるとともに、府政の無駄を厳しくチェックする」と一見すると熊谷氏の歳出削減論と通じるが、ここで言う「無駄」とは大企業への補助金やダム建設のような大型開発事業への支出であって、単なる効率化論ではない。道州制にも反対している。産業政策では「大型店の規制」「中小企業向け融資制度を拡充」と地場の中小企業の保護を強く訴えている。関空の2期事業の見直しも唱えている。財界の支持を意識している熊谷氏とは一線を画している。
 一方、橋下氏との決定的相違は教育問題で、橋下氏が「府立高校の学区制の撤廃」やら「低料金の民間塾」やら安倍晋三内閣ばりの「民営化・競争」万能論を唱えるのに対し、梅田氏は「公立学校の教育は民営化・民間委託はしない」「『格差と貧困』解消や教育条件の整備が必要」と公教育を行政が責任を持って維持することを明言している。
 梅田氏の問題は政策の中身よりも、今回の知事選に国政の対立軸が持ち込まれ、与党(自公)対野党(民主)の枠組みで埋没していることにあるだろう。政策の対立軸だけ見れば、むしろ梅田氏と熊谷氏が左右対照的で、橋下氏は政策云々以前の与太話レベルである。

 以上、大阪府知事選の立候補予定者の公約を比較検討してみたが、公職選挙法とブログの利用規約に従い、ここでは特定の候補者への投票を呼びかけるようなことはしない。私は大阪府民ではないので投票権がないということもある。投票権のある人には是非とも熟慮して選挙に臨んで欲しい。
by mahounofuefuki | 2008-01-09 15:52


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