労働者派遣法改正問題の行方

 昨年の参院選における与党大敗の直接的な影響は、既定路線だったいくつかの貧困拡大策が先送りされたことである。消費税引き上げも、生活保護基準引き下げも、参院選で与党が勝利していたら間違いなく今年粛々と実施されていただろう。もちろんあくまでも「先送り」であって、新年度の予算編成は消費税増税込みであるし、生活保護も既定通り母子加算は廃止され、依然として政府の社会保障つぶしは続いている。ただ少なくとも全面的な政策転換の機会が残っているわけで、それは今後の闘いにかかっているとも言える。

 そんな先送りされたものの1つに労働者派遣法の改正がある。厚生労働省の当初の思惑では、昨年内に労働政策審議会の議論をまとめて今年の通常国会に改正案を提出する手筈であったが、労政審の議論はまとまらず、改正案提出は先送りになった。12月25日に行われた労政審職業安定分科会の労働力需給制度部会は、労使間の意見対立を残したまま中間報告を提出し、学識経験者による研究会での検討を求めた。少なくとも使用者側が要求する派遣労働の「完全自由化」を盛り込んだ「改正」案が阻止されたことは評価するべきである。
 昨年は人材派遣大手のフルキャストやグッドウィルで、派遣労働者のユニオンなどの告発と闘争が一定の実を結び、偽装請負や不透明なピンハネが社会問題として大きく報道され、ついに業務停止に追い込んだ。特に日雇い派遣などの登録型派遣労働が「ワーキングプア」の温床となっている実態が広く認知されことも、厚労省や労政審に対するプレッシャーになっただろう。

 労政審の資料を読むと、労働者派遣法の「改正」の方向性をめぐって労使間は真っ向から対立している。
 不安定な登録型派遣の是非については、労働側が原則禁止を求めたのに対し、使用側は「一時的な対応要員として」活用したいと明言し、相変わらず雇用調整弁としての役割を担わせようとしている。日雇い派遣についても、使用者側は「派遣先の要請に応じて迅速かつ円滑に一定量の労働力を提供できる」と労働者の生活を無視した暴論を貫いた。
 企業による派遣社員への直接雇用申込義務については、労働側が正社員登用の門戸を維持するために継続が必要としているのに対し、使用側は派遣期間制限直前の「雇い止め」の横行を口実に撤廃を要求している。現行法では禁止されているものの実際は既成事実化している派遣先による事前面接は、労働側が規制の強化を訴えたのに対し、使用者側は全面解禁を唱えた。
 社会保険の加入問題でも派遣元のみならず、派遣先の連帯責任を要求する労働側に対し、使用側は法制化に反対している。正社員と派遣社員の均等・均衡待遇についても、使用側は「均等・均衡は、どこを基準にどうやって比べる必要があるのか、よくわからない」と欧州では当たり前となっている同一労働・同一賃金の原則すら認めようとしない。
 何よりも決定的な対立点は、派遣業種の全面解禁問題である。経営側は「派遣労働者の業務・職種選択の自由を担保するために」という理由で、現行法では禁止されている建設業や港湾運送業や医療関係などでの派遣解禁を要求した。労働者派遣法は1985年の制定以来、20度にもわたる「改正」を重ねて、その都度派遣適用業種を拡大してきた。元々は専門職だけだったのが、特に1999年の「改正」でほぼ「自由化」され、2004年には製造業も解禁となり、雇用の在り方を激変させた。経営側は次の「改正」で派遣労働の完全全面解禁を目論んでいる。実際には最後に残った禁止業種でも偽装請負という形で実質的な派遣労働が横行しており、使用者側の要求は偽装請負の公認を求めているようなものである。

 現在の貧困と格差の原因は、ひとえに金持ち優遇税制と非正規雇用の増大にある。貧困と格差の縮小のためには非正規雇用を正規雇用へ転換していくことが何よりも必要である。そのためには労働者派遣法の抜本的な全面改正が必要で、財界が望む派遣労働の完全解禁などもってのほかである。
 昨年10月に野党各党の参院議員も参加して行われた「格差是正と労働者派遣法改正をめざす国会内シンポジウム」では、実行委員会が7点にまとめた抜本的改正案を提示している。
 「派遣法は改正を」国会内シンポで訴え-JANJAN
 また、12月には共産党がやはり労働者派遣法の全面改正要綱を発表している。
 労働者派遣に新しいルールを確立し、派遣労働者の正社員化と均等待遇を実現します/日本共産党の労働者派遣法改正要求-しんぶん赤旗
 特に共産党の改正案は、①労働者派遣法を「派遣労働者保護法」とする。②派遣労働を臨時的、一時的業務に制限した上で常用型を原則とし、登録型雇用を厳しく規制する。③日雇い派遣を禁止する。④派遣期間を1年限定とする。⑤1年超の派遣は派遣先が直接雇用したとみなし、正社員とする。⑥派遣労働者への差別を禁止する。⑦派遣元による手数料の上限を規制する、というように派遣労働の現状の改良に必要な要素がほぼ揃っており、野党はこれをたたき台として政府よりも先に労働者派遣法改正案を提出して、審議の主導権を握るべきである。

 読売新聞(2007/12/29 11:25)によれば、昨年末に厚労省が発表した2006年度の派遣労働状況は、派遣労働者数が延べ321万人に達し、過去最高を記録する一方、派遣先が派遣元に支払う派遣料金のうち労働者の賃金の割合は、特定労働者(派遣会社の正社員)派遣で61.7%、一般労働者(登録型など)派遣で67.9%と、実にマージン率が3~4割にもなっている。
 すでに派遣労働者が1つの階層を形成し、それが固定化しており、少しでも早い労働者派遣法の抜本的な改正が求められる。この問題の行方は今後の日本社会の進路を決定づける試金石となるだろう。

【関連リンク】
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律-法庫
厚生労働省:第108回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会資料
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by mahounofuefuki | 2008-01-07 22:58


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