「歳出の公平性」だけでなく「歳入の公平性」も必要だ

 北海道大学大学院教授の山口二郎氏といえば一般にリベラル派(という呼び方は嫌いだが)の代表的な政治学者と目されており、その行動力と鋭い知性において比類がない。故に学生時代から私は一定の敬意を持っているし、その発言に影響も受けてきた。
 しかし、一方で常に山口氏に対するある種の違和感も持っているのも事実で、それは1990年代の「政治改革」の熱狂が渦巻いた時代に、二大政党制推進のオピニオンをリードし、結局小選挙区制への道を開いたことだったり(死票が多く、1票の格差が大きい反民主主義的な選挙制度であることは言うまでもない)、民主党を露骨に支援したりする姿勢だったり(昨年の「大連立」を巡る騒動でその矛盾が露呈した)、要するにあまりに「現実的」であろうとする傾向に対する疑問であった。

 なぜこんな話をするのかというと、村野瀬玲奈の秘書課広報室経由で知ったふじふじのフィルターが紹介している山口氏の東京新聞(2007/12/24朝刊)でのコラム(電子版には出ていない)と、山口氏自身のブログにも転載されている週刊東洋経済2007/12/22号でのコラムとの間に「矛盾」を感じたからで、しかもそれは今後の財政問題にとって重大な論点であり、決して見過ごせないことなのである。
 両方のコラムの全文はそれぞれのブログで確かめて欲しいが(下記の関連リンク参照)、東京新聞では歳出について、東洋経済では歳入について論じており、両者は一対のものである。

 東京新聞のコラムでは、財政支出の増大を「バラマキ」と非難するマスメディアの論調への批判を通して、国家による公平な「富の再分配」の必要性を強調している(引用文中の太字は引用者による、以下同じ)。
 「そもそも政策とは分配の変更をもたらすものである。労働分野の規制緩和を進めて低賃金を可能にすることは、労働者から企業への富の再分配をもたらす。小泉-安倍政権の時代には、そうした再分配を改革と美化してきたものだから、それに対する反動で弱者にもっと再分配しろとの声が高まるのも当然である。強者への再分配は改革と賞賛し、弱者への再分配はバラマキと非難する。このような言質のゆがみに、確信犯である日経新聞は仕方ないとしても、他メディアはもっと敏感になるべきだ」というくだりはもっともで、私も全面的に賛成である。
 貧困と格差が拡大した第一の原因が、国家の再分配機能の低下にあることを考えれば、「歳出の有効性と公平性」こそ問われなければならないという山口氏の主張は真っ当だ。

 一方、東洋経済のコラムでは、民主党の政権担当能力をめぐる議論を通して、社会保障の恒久的財源としての消費税引き上げを主張している。
 「これからの社会保障、環境保全、少子化対策など様々な政策需要を考えたとき、小さな政府が解決策になるはずがない。したがって、中期的な観点から財源についても真剣に考えなければならないはずである」というのはその通りだが、なぜそれが「消費税の引き上げについても、本格的な議論を始めるべきである」ことに直結するのか。社会保障や環境保全の財源が消費税でなければならない理由が何なのか示さずに消費税引き上げを語るのは無責任である。
 しかも、消費税増税論の提唱が政権担当能力を示すという論調は「政権を取りたかったら消費税増税を公約すべき」と言っているようなもので、まるで脅しのようで非常に危険である。

 山口氏は歳出については「有効性と公平性」を唱えながら、歳入については「有効性と公平性」を度外視しているのである。歳出における再分配機能を重視するのに、なぜ歳入においては逆進性が強くて弱者に不利な消費税の増税を求めるのか。再分配は歳出のみならず、徴税においても行われなければ無効である。
 「中期的観点」と限定している以上、山口氏はおそらく消費税の即時引き上げには慎重で、順序として「歳出における再分配の回復・強化」→「消費税の社会保障目的税化」→「消費税増税」という道筋を考えているのかもしれない。北欧型の「高負担・高福祉」を想定しているのだろう。
 しかし、いかに歳出において弱者への再分配を手厚くしても、消費税が高くなれば所得再分配効果は激減する。北欧諸国の消費税が高くても問題がないのは所得の平等度が高いからで、不平等度が今やアメリカに次いで大きい日本では消費税を引き上げたら貧困と格差はますます拡大する。所得の平等度を高くするのがまず必要なことであり、それは財政出動だけでは実現できない。何としても所得税の累進課税の強化と企業の税負担の増強(できれば資産課税の強化も)がなければ無理である
 消費税増税を検討する前に、所得税や法人税のあり方こそまず検討するのが順序として正しい。

 実態として自公政権下においては、「歳出削減」(いわゆる「上げ潮」派)か「消費税増税」(いわゆる財政再建派)かの二者択一の議論に終始している以上、「骨太の方針」の継続を狙う「上げ潮」派を批判すると、財政再建派に肩入れしてしまいがちである(山口氏は財政再建派の中心人物である与謝野馨氏を「常識と責任感を持った政治家」と持ち上げている)。
 しかし、そもそもそんな二者択一は欺瞞である。その証拠に日本経団連をはじめとする財界は、依然として「小さな政府」を要求しながら、消費税の増税も要求している。なにせ大企業は輸出戻し税によって消費税が上がれば上がるほど儲かる仕組みになっている。当ブログで何度もしつこく指摘しているように、社会保障の財源を消費税に限定するということは、現在社会保障に用いている消費税以外の財源が浮くことを意味する。この「浮いた財源」こそが消費税増税派の狙いであり、政府税調の中からもこの財源で法人減税を行うべきだとの声があった。

 山口氏は民主党に影響力があり、民主党が安易な消費税増税論に転換するのが心配だ。昨年末すでに民主党が消費税増税を検討するとのニュースが流れている。もう一刻の猶予もない。
 私が言いたいのは「歳出削減でも消費税増税でもなく金持ちたちに応分の負担を」ということに尽きる。山口氏の再考を強く望みたい。

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【関連リンク】
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村野瀬玲奈の秘書課広報室 「バラマキ」という言葉を安易に使う報道機関を信用したくない (不定期連載「決まり文句を疑う」)
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by mahounofuefuki | 2008-01-05 15:34


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