教科用図書検定調査審議会が聴取した「専門家」の意見について

 教科用図書検定調査審議会日本史小委員会が訂正申請に際して聴取した専門家9人のうち、8人の氏名と意見の要旨が公表された(北海道新聞2007/12/27朝刊)。新聞に記載された要旨から次のように整理できる。

 「集団自決」を日本軍の「強制」とする立場を明確にしているのは、沖縄県史編集委員の大城将保氏と関東学院大学教授の林博史氏。大城氏は「『敵の捕虜になる前に潔く自決せよ』という軍命令は沖縄全域に徹底されていた」と「軍命」の存在にも言及し、林氏は「沖縄戦での『集団自決』が、日本軍の強制と誘導で起きたことは沖縄戦研究の共通認識」と軍による「強制と誘導」を強調している。

 「強制」と明言してはいないが、軍の存在と「集団自決」の因果関係を認める立場をとるのは、山梨学院大学教授の我部政男氏、琉球大学教授の高良倉吉氏、沖縄学研究所所長の外間守善氏。我部氏は「沖縄戦末期にいわゆる『集団自決』が事実として起こった。その背景に『軍官民一体化』の論理が存在していたことは明確だ」とし、「軍命令」は「軍官民一体化」の論理の範囲に入ると指摘している。高良氏は「目前の住民の生死より作戦遂行を至上とした軍の論理があり、軍民雑居状態を放置した。慶良間諸島での集団自決も、軍の結果責任は明らかで、軍側の論理の関与を否定できる根拠はない」と軍の「関与」を強調している。外間氏は「沖縄県民十余万人を犠牲とした、集団自決を含む責任は日本国にある」「沖縄における軍の存在は脅威だった」と軍の「脅威」を強調している。

 「強制」を狭くとらえ、軍と「集団自決」の因果関係を否定しているのは、現代史家の秦郁彦氏、防衛省防衛研究所戦史部客員研究員の原剛氏。秦氏は「渡嘉敷島を中心に考察するが、集団自決の軍命説は成立しない。自決の「強制」は物理的に不可能に近い」「攻撃用手榴弾の交付と集団自決に因果関係はない」と軍命を全面否定し、軍の「関与」も否定している。原氏は「沖縄戦では戒厳令は宣告されず、軍に住民への命令権限はなかった。関係者の証言によると、渡嘉敷・座間味両島の集団自決は軍の強制と誘導によるものとはいえない」と大江・岩波訴訟の原告側証言のみを根拠として「強制と誘導」を否定し、さらに住民は「自ら死を選び自己の尊厳を守ったのだ」と「自決」を美化さえしている。

 軍の関与の度合いについてはっきりしないのが帝京大学講師の山室建徳氏で、ただ「先祖伝来の地に住む沖縄県民の多くは『集団自決』の道をとらなかった。一部の軍が住民に自決を強要したとだけ記述するのは、事実としても適切ではない」と「集団自決」が県民の少数派であることを強調し(これは前述の秦氏も渡嘉敷の「自決者は全島民の3割に及ばず」と強調していた)、軍の「強制」「関与」とも少なくとも教科書に記載することには反対している。

 専門家といっても実際は沖縄戦の研究業績のない研究者が含まれている。高良氏は中世・近世史の研究者で琉球王国の専門家である。秦氏は軍事史の研究者ではあるが、一般には沖縄戦の研究者とは目されていない。山室氏は政治史の研究者で、歴史修正主義グループに参画する東京大学名誉教授の伊藤隆氏の門下である。
 文部科学省は訂正申請に際して専門家に意見聴取する前から、軍の「関与」は認めるものの、軍の「強制」はあくまで認めないという方針を固め、「関与」説が多数ないし「中立」になるよう恣意的な人選をしたと考えられる。
 *ただし意見書の全文を読んでいないので、当ブログの整理・分類が不正確な可能性はある。

 なお長らく非公表だった教科用図書検定調査審議会の日本史小委員会の委員も8人中7人が公表された。九州大学大学院教授の有馬學氏、國學院大學教授の上山和雄氏、筑波大学副学長の波多野澄雄氏、駿河台大学教授の広瀬順晧氏、國學院大學名誉教授の二木謙一氏、学習院女子大学教授の松尾美恵子氏、国立歴史民俗博物館教授の吉岡真之氏である。
 このうちすでに当ブログで指摘した有馬、上山、波多野、広瀬各氏が近代史専攻である。

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教科用図書検定規則-文部科学省
教科書検定の手続-文部科学省
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by mahounofuefuki | 2007-12-27 12:03


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