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エム・クルーの偽装請負・賃金ピンハネ問題と「成金」イデオロギー

 建設請負会社エム・クルーの日雇い派遣労働者の労働組合エム・クルーユニオンが、エム・クルーの賃金不払いと偽装請負を東京労働局に申告した(毎日新聞 2007/12/12 22:02)。
 10月1日に結成されたエム・クルーユニオンは、同社が「安全協力費」「福利厚生費」の名目で賃金から1回あたり300~500円をピンハネしている実態を告発し、会社側にピンハネ分の全額返還を要求している(産経新聞 2007/10/01 18:43など)。人材派遣大手のグッドウィルやフルキャストと同様の手口で、貧困者を食い物にした「中間搾取」だが、エム・クルーはいまだ返還に応じておらず、偽装請負も否定している。

 エム・クルーの実態については、Moyai Blog エム・クルーユニオン結成がわかりやすいので一部引用する(太字は引用者による、他の引用文も同じ)。
(前略)エム・クルーと聞いても、ピンとこない人が多いかもしれないが、レストボックスと言えば、「聞いたことがある」と言う人もいるのではないだろうか。「元ホームレス社長」前橋靖(おさむ)氏が経営し、「フリーターに夢を」と謳っている会社だ。レストボックスとは、家のないフリーターが安く宿泊できる安ホテル。エム・クルーはレストボックスを運営しつつ、そこに泊まっている人にも泊まっていない人にも、日雇仕事を紹介している。

しかし、その仕組みは、エム・クルーの自己宣伝とは裏腹に、怪しいところが満載だ。まず、フルキャストが返還し、グッドウィルも2年分については返還すると約束している使途不明の違法天引き金額が、エム・クルーの場合500円にのぼる。フルキャストが250円、グッドウィルが200円だから、破格の高さだ。

そして、紹介される仕事先は、ほとんどが建設現場。建設現場への労働者派遣は法律で禁じられているから、エム・クルーはこれを「請負」と主張しているが、それならばエム・クルーが現場の担当部署を管理・運営しなければならない。しかし実際には、送り込まれた先の会社の指揮下に入っている。つまり、違法派遣をごまかすための偽装請負だ。

私もエム・クルーに登録して働きに行ったが、最初に送り込まれた現場は、私一人で、完全に派遣先の会社の指揮下に入って仕事をした。私立学校の宿舎改修現場だった。初めての人間がたった一人で、担当部署を管理・運営することなどありえない。間違いなく偽装請負だった。そして、ちゃんと?500円が天引きされている。(後略)
 また、11月27日の参議院厚生労働委員会で共産党の小池晃議員がエム・クルーの問題を取り上げている。以下、参議院会議録情報 第168回国会 厚生労働委員会 第8号より。
(前略)
○小池晃君 それから、最低賃金制度にかかわってお聞きしたいんですが、資料をお配りしております、三枚目以降を見ていただきたいんですが、建設請負会社のエム・クルー、これはネットカフェ難民を扱う会社として登場して、社長がホームレスだったこと、あるいは竹中平蔵さんと非常に仲がいいというか、そんなことでも話題になっています。これは、都内主要駅ほとんど、レストボックスという二段ベッドの宿舎を提供して、簡易宿泊と建設請負の仕事紹介をセットにして営業している、そういう企業です。
 この会社で働いている労働者が今年十月労組を作りまして、安全協力費とか福利厚生費の名目で最大一日五百円の天引きが同意なく行われているということで全額返還を求めております。
 お配りしたのは、この会社の建設会社に対して向けたチラシと、それから労働者に向けて出した案内。これを見ますと、建設会社が支払う料金というのは一日一人当たり、これキャンペーン中なんでちょっと安いんですが、組合によりますと、一日一人当たり一万二千三百八十円なんです。ところが、二枚目見ていただくと、労働者に対する賃金見ると、これ七千七百円なんですね。問題の経費五百円ここから引きますから手取りで七千二百円、もう実にマージン率が四二%ということになるわけです。
 これ、時給換算すると九百円で、まあ最低賃金はクリアしているかもしれません。しかし、料金の六割程度の賃金で、しかも交通費込みだと。宿泊費、これは千八百円取られるんで、残るのは五千四百円。これ、宣伝では、エム・クルーで働いて頑張れば部屋が借りられるようになる、こう言っていますけど、これでは生きていくのが精一杯ではないかなというふうに思うんですね。
 最賃がやっぱり低いことがこういう事態を生んでいる原因の一つにもなっているのではないかと思うんですが、この会社、建設請負で派遣事業法の登録していません。しかし、実際には他社の工事現場に労働者を送る、実態としては労働者派遣。元々、建設は禁止されているはずなんです
 大臣、今こういう貧困ビジネスというのが大きく広がっているんですね。宿泊施設付きの派遣や請負、こういう事態について実態把握がされているのか。もし把握していないのであれば、私は派遣法や労基法に基づいてきちっと調査すべきだと思いますが、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(舛添要一君) 今は一つ個別の案件を御引用なさいましたけれども、一般的に、基本的には労働関連の法令に違反したところに対してはきちんと厳正な処置をやると、そういう方向で我々はやっていっているし、今後ともその方向は曲げないでやっていきたいというふうに思っております。
○小池晃君 いや、そういう一般論じゃなくて、こういう貧困ビジネスというのはかなり大きなトレンドになってきている中で、厚生労働省としてもこれはやっぱり一定の問題意識持って調査をするという態度、必要じゃないですか。
○国務大臣(舛添要一君) その点も含めまして、先ほど来のほかの委員の先生方にもお答えいたしましたけれども、九月から労働政策審議会において、そういう点も含めて派遣労働の在り方について再検討を加えるということをきちんとやっておりますので、その結果を踏まえて必要な対処をいたしたいと思います。(後略)
 労働者派遣法が禁じる業種での派遣をごまかすために、「派遣」ではなく「請負」と言い張るのは近年の偽装請負の最も典型例だが、ピンハネ金額がハンパじゃない。経営者の悪質さは天下一品だ。
 
 引用記事でも触れられているが、このエム・クルーは創業者(社長)が「元ホームレス」であることを売り物にし、同じような境遇にある若者を応援する「ソーシャル・ベンチャー」をうたっている。
 以下、エム・クルーのホームページの前橋靖社長のメッセージより。
 社長メッセージ-エム・クルー
(前略) 私は、高校卒業後、定職に就かずに夢を追いかけプロサーファーを目指しておりましたが、挫折して車上生活者となりその後上京し、気がつけばヤングホームレスという生活を2年近く経験致しました。私も含め、夢を求めて上京しても、その後、自己表現できるような職にめぐり合えず仕方なくフリーターを続けている人がほとんどというのが現実です。 そこで、求職者やフリーター(定住先を求める)が自己啓発やモラールを身につけていけるような環境を提供し、次のチャンスを獲得できるよう応援したいと考え、「フリーター・求職者支援」事業を立ち上げました。

 2006年12月にバングラデシュのグラミン銀行とその設立者であるムハマド・ユヌス氏が、貧困層のひとびとの経済的・社会的発展への貢献が評価され、ノーベル平和賞を受賞しました。同銀行はマイクロクレジットと呼ばれる貧困層を対象にした少額無担保融資を行う新しいモデルをバングラデシュで構築しただけではなく、それを世界に広げ、世界の貧困削減に大きく貢献しました。ソーシャル・ベンチャーを標榜するエム・クルーとしましては、今回の受賞を心より祝福すると同時に、社会問題をビジネスの手法で解決する「社会起業家」が世界的に注目されていることを真摯に受け止めております。ムハマド・ユヌス氏と同様に、貧困層を対象とする当社のビジネスを今後も強力に展開することにより社会に貢献する所存であります。(後略)
 ムハマド・ユヌス氏はこんな所で自分の名前が使われているとはつゆ知らないだろう。実際に貧窮者の自立を実現してきたグラミン銀行と、労働者を貧窮状態に置いたまま搾取を繰り返すエム・クルーでは天と地の差だ
 
 ところで私が思うに、前橋氏のような「成り上がり者」ほど「上」に甘く「下」に厳しいような気がする。たとえば消費者金融の経営者には自身が債務で苦しんだ者も少なくない。自分が他人を蹴落として「成功」した自負から、かつての自分のような「下流」には自分と同じ「努力」を求める一方(「成功者」はたいてい自分の「努力」だけで成り上がったと思い込みがち)、「上流」に対しては単純な羨望の眼差しを送り、ひたすら仲間入りを目指す。それが一般的な「成金」の姿だろう。前橋氏も竹中平蔵氏のような「セレブ」と昵懇になれて有頂天なのだろう。
 問題は、社会の平等化など考えもせず、階級社会と「弱肉強食」を絶対の所与の条件として、その中で「セレブ」になる夢を追うという考え方が、「下流」の人々にも広がっていることにある。このイデオロギーに立てば、彼らにとって支配階級は「憧れの的」であって、怒りの対象とはならない。「下流」ほど自民党を支持したがる傾向や、「左」を忌避する傾向とも共鳴しているのではないか。
 エム・クルー社長の前橋靖氏の存在は、現在の階級社会の問題性を考える上で、格好の素材だと思う。この問題は別の機会に取りあげたい。

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【関連リンク】
株式会社エム・クルー
全国ユニオン
特定非営利活動法人 自立生活サポートセンター もやい
by mahounofuefuki | 2007-12-13 12:45


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