共産党の「都議会報告」などのビラを東京都内のマンションのドアポストに配布していた人が住居侵入罪に問われていた訴訟で、東京高裁は一審の無罪判決を破棄し、被告に罰金5万円の支払いを命ずる不当判決を下した。
昨年8月に東京地裁が下した一審判決は「防犯意識の高まりなどを考慮しても、ビラを配布する目的で昼間に短時間立ち入ることすら許されないという社会通念が確立しているとはいえない」(読売新聞 2007/12/11 20:36)と奥歯にものがはさまったような物言いながら、至極当然の内容だったのに対し、今回の控訴審判決は「住民は住居の平穏を守るため部外者の立ち入りを禁止できる」とマンション管理組合がビラ配布を禁止していたことを認め、「被告は立ち入りが許容されていないことを知っており、住居侵入罪が成立する」と断定し、さらにビラ配布の「目的自体に不当な点はない」としながら「表現の自由は無制限に保障されるものではなく、他人の財産権を不当に害することは許されない」(毎日新聞2007/12/12 朝刊)と財産権が表現の自由に優先するという不可解な内容である。 この事件は、表向きは「住居侵入罪」だが、実態は共産党をはじめとする政府に批判的な政治活動に対する活動妨害を公認しようとしている点に問題がある。立川の自衛隊官舎に自衛隊のイラク派遣に反対するビラを配った運動家もやはり住居侵入罪で逮捕、異例の長期拘束を受けたが(しかもやはり控訴審が有罪判決を下し係争中)、企業のセールスや訪問販売などが大手を振って立ち入りしているのに、政治活動それも現政府に批判的な活動だけが検挙されている事実は、問題の所在を端的に示していよう。 今回の判決はビラ配布が住民の財産権を侵害したと断じているが、具体的にどう侵害されたのか言及していない(しんぶん赤旗 2007/12/12)。財産権云々はいかにも牽強付会で、裁判官の行政権力への迎合ぶりが際立っている(池田修裁判長はこの判決が「評価」されて次期異動で「栄転」するだろう)。住居侵入で通報した住民、逮捕した警察官、起訴した検察官、有罪判決を下した裁判官に共通するのは、表現の自由が民主主義の前提であることへの無自覚であり、既存の権力秩序に従ってさえいれば「幸せ」に生活できるという「小市民的保守主義」への依存である。20年前ならとうてい起訴などされないような案件が、保守的な大衆と警察権力と司法権力の合作によって「事件」に仕立てられること自体、すでにこの国の民主主義が崩壊していることを象徴している。 ちなみに私の住居には、共産党も自民党も民主党も公明党もビラを配布していく(選挙中には「怪文書」も)。たとえば「公明新聞」なんて普段は読めないので、ビラと一緒に置いてもらえるのは「敵情視察」に使えるのでありがたい。共産党のビラを見たくないからと言って警察に通報した反共住民は、そういう寛容さも持ち合わせていないのだろう。非常に偏狭だ。 最近は自分と異なる意見を読むことを厭う人々が増えているような気がする。「異論の共存」を認めないことからファシズムは生まれる(故に一部の左翼ブロガーの「ネトウヨを逮捕せよ」といった言に私は与しない)。現在の日本の言論状況が閉塞しているのも、そのあたりに原因があるように思う。 いずれにせよ、特定の政党への弾圧を公認する今回の判決は明白な憲法違反であり、とうてい容認できない。被告は即日上告したので訴訟の舞台は最高裁へ移るが、最高裁が無罪判決を下すよう強く願う次第である。 【関連記事】 「アカの壁」を越えるために 【関連リンク】 葛飾ビラ配布弾圧事件 ビラ配布の自由を守る会
by mahounofuefuki
| 2007-12-12 13:07
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