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トヨタ過労死訴訟で画期的な判決

2002年にトヨタ自動車堤工場で、当時30歳の社員が過労により死亡したにもかかわらず、豊田労働基準監督署が労災を認定しなかったため、死亡した社員の妻が労災不認定処分の取り消しを求めていた訴訟で、名古屋地裁は死亡と過労の因果関係を認め、処分の取り消しを命ずる判決を下した。

最近の司法は、過労死による労災を認める傾向があるが、今回の判決の画期的な点は、トヨタが従業員の自発的な活動で業務ではないと主張している、生産方式の「カイゼン活動」を業務と認めたことである。
トヨタは「創意くふう提案」「QC(クォリティーコントロール)サークル」などの小集団による「業務改善」を社員に行わせて、社員の企業共同体への一体化を進めているが、今に至るも経営側はこれらを会社の業務とみなしておらず、労基もトヨタに迎合して「カイゼン活動」時間を労働時間に算入しなかった。
今回の判決はそうしたトヨタと労基の欺瞞を突いたのである。
以下、毎日新聞(2007/12/01 01:05)より。
(前略) 判決で多見谷裁判長は「業務は精神的ストレスをもたらしたと推認できる。上司と職場に残っており、相当時間残業している勤務状況を上司は認識できた」と指摘。また、徹底的に職場の能率向上を図るトヨタ生産方式「カイゼン」のため、同社が社員に「創意くふう提案」などをさせる「小集団活動」についても、原告が業務の一部と主張したのに対し、判決は「運営に必要な準備を社内で行っており、業務と同様にとらえられる」と認定した。労基署は03年12月、「拘束時間すべてが労働時間ではなく、実際の残業は約45時間」と業務と死亡の因果関係を否定していた。(後略)
以下、朝日新聞(2007/12/01 07:57)より。
(前略) トヨタは、社員が創意くふう提案に費やす時間や、月2時間を超えるQCサークル活動を自発的活動とみなして、残業代も支給してこなかった。
 QC活動を「業務」と認定した理由について判決は、(1)会社紹介のパンフレットにも積極的に評価して取り上げている(2)上司が審査し、その内容が業務に反映される(3)リーダーは活動の状況を自己評価していた、などの点を指摘。QC活動はトヨタの自動車生産に「直接役立つ性質のもの」であり「使用者の支配下における業務」とした。
 原告側の弁護士は「外見上、自発的な活動としながら、企業が残業代を払わずに労働者に仕事をさせる巧妙なシステム。トヨタの急成長の秘密の一つだ」と指摘する。(後略)
要するに巧妙な「タダ働き」であり、労働者の生存権などこれっぽちも考えていない、奴隷労働である。

判決は、いわゆる「トヨタ方式」と呼ばれる徹底したコストカット管理については、判断を回避したが、莫大な政治資金で自民・民主両党の国会議員などを意のままに動かし、莫大な広告費でマスメディアを黙らせているトヨタの「実力」を考えれば、今回の裁判官は非常に勇敢であったと言えよう。

ちなみに、前記毎日電子版には、トヨタのコメントが載っているが、その内容は「ご遺族と国の訴訟でコメントする立場にございません。元社員がお亡くなりになられたことは心からお悔やみ申し上げ、社員の健康管理に一層努めてまいる所存です」という、反省のかけらもないものだ。
労働者が「社畜」と化して、身を粉にして全身全霊を尽くしても、「飼い主」は飼っている虫が1匹死んだくらいにしか考えていないのである。

なお、この過労死については、妻のインタヴューをもとに書かれた以下の記事が必読である。
MyNewsJapan-トヨタで死んだ 30歳過労死社員の妻は語る(1) 生体リズム壊す変則勤務体制
MyNewsJapan-トヨタで死んだ 30歳過労死社員の妻は語る(2) 利益1兆円を生む「賃金のつかない業務」
MyNewsJapan-トヨタで死んだ 30歳過労死社員の妻は語る(3) 「死んだら、もういらないの?」
*記事の全部閲覧は、有料会員限定。

《追記》

トラックバックしてくださった酒井徹の日々改善に、法廷での判決言い渡しの様子が記されている。
通常、裁判長は判決の主文のみを読み、あとは判決文を配布することで代えるのだが、今回の裁判長は自ら判決理由も述べ、原告に直接ねぎらいの言葉をかけ、さらに一部原告側の要求を判決理由に盛り込まなかったことの事情も説明したという。
司法権の独立、裁判官の独立が形骸化しつつある現在、まだこんな判事がいたことに深い感銘を覚えた。今や国を敗訴にすることは命がけである(住基ネットに違憲判決を出した判事が変死したことを忘れてはならない)。自己の良心に忠実な判事に敬意を表する。
なお、言うまでもないが、被告の国は控訴するべきではない。


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