生活保護切り下げは厚生労働省の「自作自演」の貧困拡大策

厚生労働省社会・援護局の研究会「生活扶助基準に関する検討会」が、今日(11月30日)生活保護基準引き下げを求める報告書をまとめた。

この「生活扶助基準に関する検討会」は5人の大学教授から成る研究会だが、先月19日以降5回にわたる会合を開き、生活保護基準の見直しを検討していた。学識経験者による「専門的な分析・検討」(第1回会合の資料より)を謳ってはいるが、他の諸官庁の諮問機関と同様、官僚の方針に「お墨付き」を与えるだけの形骸化した研究会である。来年度予算編成に間に合わせるために、わずか1か月強の検討で結論を出したのも、厚労官僚のシナリオ通りであろう。

すでにこの「検討会」設置前から厚労省の生活保護基準引き下げ方針は一部で報道されており、特に北海道新聞が何度かこの「検討会」の議論を伝えていたが、世論の喚起には至らず、今日の報告書決定に至った。

報告書はまだ厚労省のホームページに出ていないようだが、朝日新聞がその内容を今日の会合前にすでに伝えている(「検討会」の前にとっくに報告書ができていた証拠)。
以下、朝日新聞(2007/11/30 08:23)より。
(前略) 報告書案は、生活保護の支給額が高すぎると国民の公平感が損なわれるとの観点から、生活保護費の中の生活扶助について、全国消費実態調査(04年)をもとに検討。全世帯で収入が下から1割にあたる低所得世帯の生活費との比較が妥当だと明記した。
 その結果、夫婦と子の3人世帯の場合、低所得世帯の生活費が月14万8781円に対し、生活保護世帯の生活扶助費は平均15万408円と、約1600円高かった。60歳以上の単身世帯は、低所得者6万2831円に対し、生活扶助費は8000円以上高い7万1209円だった、とした。
 また、地域の物価水準の違いなどから、都市部の基準額を地方よりも最大22.5%高くしている現行制度について「地域間の消費水準の差は縮小している」と指摘した。
 このほか、基準額の決め方を、夫婦と子の3人世帯を標準とする現行方式に対して、単身を標準とする方式を提言している。
要するに、生活保護給付が生活保護を受給していない人の所得よりも多いので、「不公平感」に配慮して生活保護基準を引き下げるというのである。

しかし、引き下げの本当の要因が別のところにあることを、毎日新聞の吉田啓志記者が署名記事で伝えている。
以下、毎日新聞(2007/11/30 18:18)より。
(前略) 生活保護費のうち食費など生活扶助の見直しは、受給世帯の月収を、収入の下位から1割にあたる非受給世帯の月収水準にそろえるのが基本。夫婦と子供の3人世帯を標準とし、標準世帯で比較することを軸にしている。ところが報告書は、単身者を標準とするよう提言した。「受給者の7割が単身者だから」がその理由だ。
 しかし、受給世帯と非受給世帯の収入を比べると、3人世帯では受給世帯(15万408円)が1627円多いだけだが、単身者(60歳以上)だと受給者(7万1029円)が非受給者を8378円上回る。単身者は食材などの大量購入による節約が難しく、生活必需品の価格を積み上げて決める扶助基準が高く設定されがちだ。報告書が単身者を標準としたのは、扶助基準の引き下げ幅をより大きくすることも可能とするための布石だ。
 厚労省がこの時期、生活保護費の削減を可能としたのは、08年度も社会保障費を2200億円圧縮しなければならないのに、削減項目が詰まっていないことがある。
 1000億円程度を見込む政府管掌健康保険の国庫負担削減案が難航しており、予備に別の財源を用意する必要が生じている。政管健保の削減幅が縮小すれば、それとは関係ない生活保護費の削減幅が大きくなる構図で、国民の最低限度の生活を保障する制度が、予算編成のつじつま合わせに使われようとしている。
「不公平」云々という話は表向きで、実態は政府による社会保障費削減のあおりで、生活保護が犠牲に供せられたのである。

現在、生活保護給付と生活保護を受けていない人の所得が逆転しているのは事実である。
地域別の法定最低賃金は生活保護給付額を下回っており、しかも最低賃金はまったく守られていない。
そのため先日成立した改正最低賃金法は、最低賃金と生活保護の「整合性」を盛り込んだ。これで最低賃金を生活保護に合わせて引き上げることが可能になったが、逆に生活保護を最低賃金に合わせて引き下げることも可能になった。
厚労省は改正法の成立を見込んで、後者の生活保護の引き下げを準備していたのである。

しかし、生活保護の非受給者の収入の方が低いから生活保護を引き下げるというのは、矛盾した話である。
非受給者の収入と生活保護給付の「逆転現象」は、「生活保護が高すぎる」から起きるのではない。生活保護基準以下の生活を送っているのに、生活保護を受けられない人々が大勢いるから「逆転」するのである

近年の厚労省は生活保護を違法に運用して、セーフティネットとしての機能を弱らせている。
違法行為の第1は、生活保護の申請者を窓口で追い返す「水際作戦」である。申請者に申請書を渡さないのは職務放棄のはずだが、各地の自治体で横行している。
第2は、「就労指導」に名を借りた受給者への嫌がらせや脅迫である。無理やり生活保護を「辞退」させる非人道的な行為を厚労省が奨励しているのである(尾藤廣喜「北九州市から『生活保護』の現場を考える 『棄民』の構造をどう転換するか」『世界』2007年11月号を参照)。

つまり、厚労省は違法な切り捨てによって、生活保護を受けられない貧困者を増やしておいて(人為的に「生活保護の方が高い」状況を作り出して)、その上で生活保護基準の切り下げを行おうとしているのである。
これは厚労省による自作自演の貧困拡大策と言わざるをえない。

ちなみに舛添要一厚生労働大臣は、今日の閣議後の記者会見で、「非常にきめの細かい激変緩和措置をやって、若干下がるにしても明日から立ちいかなくなることは絶対に避けたい」と述べたという(朝日新聞 2007/11/30 11:48)。
語るに落ちるとはまさにこのことであろう。生活保護の切り下げが「激変」であることを大臣自ら認めたのである。
「激変緩和措置」などではなく、「激変」をやめる措置が必要であることは言うまでもない。

生活保護は貧困層だけの問題ではない。
誰もが何らかの理由で、失業→雇用保険給付→再就職難航→雇用保険打ち切り→生活保護、という道を歩む可能性をもっている。現在、貧困とは無縁の恵まれた人々も、「明日は我が身」の精神で生活保護問題をとらえなければならない。
(経済的に安定した職に就けなかった私には死活問題である。)


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最低賃金と生活保護-北海道新聞の記事より

【関連リンク】
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第1回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第2回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第3回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第4回資料
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by mahounofuefuki | 2007-11-30 20:34


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