堺市の入院患者置き去り問題について

堺市のある総合病院の職員らが、糖尿病で入院中だった60代の全盲の患者を連れ出し、大阪市内の公園に放置していた問題が明るみになった。

東京新聞(2007/11/14 朝刊)より。
(前略) 調べや病院などによると、職員と医事課員三人は九月二十一日午後一時ごろ、男性を車に乗せ、大阪市住吉区の男性宅に連れて行ったが、住んでいた前妻(63)が引き取りを拒否。午後二時二十分ごろ、病院から約十キロ離れた西成区の公園に連れて行ってベンチに座らせ、下着類などの荷物とともに置き去りにした。
 四人のうち一人は直後に匿名で「目の見えない男性が倒れている」と一一九番し、サイレンの音を確認して立ち去った。男性は別の病院に運ばれ、現在も入院中。搬送時、救急隊に「熱がある」と訴えていた。
 渉外係の職員は「前妻から『持病があり、困る』と拒否され、どうにもならず、救急隊に任せれば大丈夫と思った」と話しているという。
 男性は糖尿病で約七年前から入院。当初は生活保護を受けていたが、約二年前に打ち切られたという。病院側は「治療は必要だが通院で対応できる」として退院を勧めていた。入院費約百八十五万円が未払いだったほか、待遇などをめぐりトラブルになっていた。(後略)
毎日新聞(2007/11/13 21:00)より。
(前略) 同病院や堺市保健所によると、男性は約2年前から入院費用など治療費を滞納。約3年前から退院可能な病状だった上、自宅が判明したため、職員4人が9月21日午後1時ごろ、男性を車に乗せて大阪市住吉区内にある男性の自宅を訪れた。しかし、同居する前妻が本人の持病を理由に引き取りを拒否したことから、同2時20分ごろ、西成区内の公園で男性を降ろして放置した。(中略)
 男性は約7年前に入院。生活保護が打ち切られて治療費が滞納状況となり、備品を壊したり看護師に暴言を吐くなどトラブルもあったという。(後略)
既に大阪府警が保護責任者遺棄容疑で病院を捜索し、堺市保健所が医療法違反にあたるとして病院へ行政指導したという。

前記東京新聞には院長のコメントが出ている。
 医療人として非常に恥ずかしい。この一言に尽きる。職員が独断でやったことだが、反省しきりだ。ただ、病室でのトラブルが続き、入院費も未納で、福祉事務所や保健所に何度も相談に行ったが対応してもらえなかった。私たちが(患者と行政側の)谷間だった。治療は必要だが通院で対応できる状況で「通院してください」とお願いしていた。
病院が問題の患者を持て余していたこと、事件が起きるまで行政が何ら対応していなかったことがわかる。

この問題について、弁護士の津久井進さんが論じており、一部引用する。
津久井進の弁護士ノート 本当に保護責任者遺棄をしたのは誰か?~現代姥捨山
(前略) まだ立件されているわけではないけれども,私は,この病院を弁護したい。

 もちろん,この職員の行為は,医療関係者としてあるまじき行為であるであって,当然,責任はあるだろう。
 しかし,本当に悪いのは,別のところにあるのではないか。
 真の原因は,違うところにあるのではないか。

 第1に,最初にこの患者を見捨てたのは,大阪市の生活保護課ではないのか。
 詳しい事情はよく分からないけれども,2年前に生活保護が打ち切られたとのこと。
 生活保護の受給を受けていたら,医療扶助があるので,医療費滞納などという事態は起こりえない。
 生活保護の打ち切りで,現実の不利益を受けるのは,病院ではないのか。

 第2に,病院を追い詰めたのは,厚生労働省の政策にほかならない。
 厚生労働省は,「療養病床」の削減計画を打ち出している。
 「療養病床」というのは,治療目的の一般病床ではなく,長期入院のお年寄りの受け皿の病床だ。
 医療費圧縮のために,現在,全国に約35万床あるのを,5年後までに約15万床に減らそうという締め付け政策だ。
 病院は,この患者の追い出し行為につき国から褒められこそすれ,保護すれば責められるのだ。

 家族に見捨てられ,生活保護からも放逐された社会的入院患者の行き場は,どこにあるのだろうか。(後略)
津久井さんの見解に全面的に賛同したい。
生活保護の切り捨てと療養病床の削減という政府の施策が、医療従事者を極限にまで追い込んだのである。
最近は入院費のみならず、通院患者の医療費滞納や、保険料未納による保険証取り上げなども問題になっている。
いずれも貧困と格差の拡大に起因する。

誰もが病気になりうるし、誰もが必ず老いる。
誰もがある日突然、介護する側にも介護される側にもなりうる。
故に今回の問題は決して他人事ではない。
[PR]
by mahounofuefuki | 2007-11-14 12:21


<< 消費税増税の危機は続く 新テロ特措法案のタイムスケジュ... >>