新テロ特措法案のタイムスケジュール及び自衛官の自殺増加について

新テロ特措法案が衆議院テロ対策特別委員会で可決された。
明日(13日)の衆議院本会議でも与党の賛成多数により可決され、審議の舞台は参議院へ移る。
各種報道によれば、参院第1党の民主党は、参院ではイラク特措法廃止案の審議を優先し、新テロ特措法案の審議を遅らせて「時間切れ」を目指すという。

実は衆議院を通過したことで、政府・与党があくまで新テロ特措法案の成立に固執するのならば、タイムスケジュール上は十分可能になってしまった。
なぜか。今国会の会期は先に12月15日まで延長になったが、もしそれまでに参議院で法案が議決されなければ、審議未了で廃案となる。政府・与党がここで断念すればそれでよしだが、その可能性は限りなく低い。国会法第12条2項により、臨時国会は2度まで延長が認められており、今国会の会期はあと1度延長が可能だからだ。

憲法第59条2項により、参議院で否決された法案は、衆議院で3分の2以上の賛成で再可決すれば成立する。
現在、与党は衆議院で3分の2以上の議席を占めており、再議決に持ち込めば新テロ特措法案は成立する。再議決のためには「参議院の否決」が必要で、参議院が採決しない限り可決も否決もないから、参議院がねばって採決を延ばせば衆議院での再議決は防げるかというと、さにあらず。憲法第59条4項の「60日規定」があるからだ。

憲法第59条4項は「参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて60日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる」と定めている。つまり、明日(11月13日)衆議院を通過した場合、60日後の1月12日以降は、たとえ参議院が法案を採決せずとも「否決」とみなして衆議院で再議決が可能なのである。
報道では再議決の場合、野党は参院で内閣問責決議を行うとしているが、衆院の内閣不信任決議とは異なり、首相の衆院解散権を拘束するものではない。そして厚顔無恥な福田首相は開き直って問責を無視し、そのまま臨時国会は終了するだろう。

国会法は第2条で、1月中の通常国会招集を定めている。つまり今国会は最長でも1月中旬までしか延長できない(当たり前だが通常国会の前に臨時国会が終わっていなければならない)。そこから逆算すれば11月中旬までに衆院通過することが、政府・与党にとって是が非でも必要だったのである。
与党が今日の委員会採決、明日の本会議採決に踏み切ったのは、何も首相のアメリカ訪問に合わせただけではないのだ(その辺も込みで訪米日程が決まったのだろう)。

こうなると返す返すも「小沢騒動」がいかに民主党にとって失点であったかがわかる。
もし「小沢騒動」がなければ、世人の目は一斉に防衛省汚職へ向いていたはずだ。この問題は攻めるに事欠かない。守屋武昌へのあの手この手の接待攻勢など、大衆好みの話題もたくさんある。世論は激高し、政府・与党はテロ特措法どころではなかったかもしれない。
しかし、小沢一郎をめぐる一連の「騒動」のインパクトがあまりに強く、山田洋行の元専務が逮捕されたというニュースも霞んでしまった。「騒動」の間に国会の会期延長もすんなり決まり(国会法第13条により、会期延長は衆議院の議決が優先される)、野党は十分に抵抗できなかった。

しかも、最低賃金法改正案と労働契約法案で、与党と民主党の修正協議という前例もできてしまった
福田政権は今後、通常国会でも予算案では憲法第60条2項の「30日規定」を用いて乗り切り、他の法案は個別に民主党と修正協議を行い、衆院解散を先延ばしするだろう。綱渡りの議会運営が可能なのは「衆院の3分の2」という「小泉の遺産」のためであり、どうやっても次の選挙では自民党は現有議席を減らすからだ。
衆院解散に追い込むには野党が結束して、政策協議やら修正協議など断固拒絶し、一切与党とは妥協せず、与党がもうだめだと政権を投げ出すくらいまで追い詰めなければならないのだが、果たして小沢一郎氏にその意思があるのかまったく疑問だ。

以上のように先行きは暗いが、参議院で野党がテロ特措法やイラク特措法の問題性を浮き彫りにし、さらに防衛省の汚職を攻めることができれば、まだ逆転勝利はあるとも言える。
今日発表されたNHKの世論調査では、特措法にについて「賛成」よりも「反対」よりも「どちらともいえない」が最も多く、総じて関心が薄いことが明らかになっている。この無関心状況から「テロ特措法はおかしいんじゃないか?」という「空気」を作り出せるかが、勝負の分かれ目だろう。

ところで、そのテロ特措法の基盤を揺るがすようなニュースがある。北海道新聞(2007/11/12 07:22)より。
*漢数字をアラビア数字に変換した。
2004-06年度で、自殺した自衛官が毎年度100人に達していることが11日、防衛省の調べで分かった。05、06の両年度は共に101人と過去最多で、07年度も半年間(4-9月)で53人とこれらを上回るペース。ストレスや部隊内でのいじめを背景に挙げる声もあるが、同省は原因は不明とする一方で「自殺者増は深刻。カウンセリングの充実を図りたい」としている。
 
 同省人事教育局によると、06年度の自殺自衛官は陸自65人(前年度比1人増)、海自19人(同4人増)、空自9人(同5人減)、事務官8人(増減なし)。過去10年間では、01年度の64人が最少で、04年度に初めて100人となり、3けたに突入した。10万人当たりの自殺者は06年度で38.3人。人事院がまとめた国家公務員の17.7人(05年度)の2倍強に当たる。

 原因をみると、同省の06年度調査で「その他・不明」が63人、「借財」23人、「家庭の悩み」11人と続く。

 自衛隊に詳しいジャーナリスト三宅勝久さんは、自殺の背景として「いじめや借金苦も後を絶たず、組織の閉鎖性も要因。海外派遣、テロ関連の警備強化もストレス増を後押ししている」と指摘。04年-06年7月にイラクへ派遣された陸空両自衛官のうち、帰国後の自殺者は7人を超す。(後略)
私は以前ある元自衛隊員から、海外派遣が増え、「テロ対策」の強化や日米軍事一体化が進んだこの数年、自衛隊の訓練が厳しくなり、隊内のいじめが激しくなって、自殺者が増加していると聞いたことがある。
また、2003年7月に衆院厚生労働委員会で、共産党の小沢和秋議員が、自衛官の自殺者が1993~2003年の10年間で601人に達していることを取り上げている(衆議院会議録 厚生労働委員会 第156回第25号)。

この記事はその後も自殺者が増加し続けていることを示しており、防衛省が何ら実効的な対策を取って来なかったことも証明している。
自衛隊に限らず、一般に自殺は「事故死」として処理することも多いので、もっと多い可能性もある。参議院の審議では、是非とも自衛官の自殺問題を取り上げ、自衛隊がとうてい海外派遣に耐えられる状況にないことを明らかにして欲しい。


《追記 2007/11/13》

社民党の照屋寛徳衆院議員の質問主意書に対する政府の答弁書によると、インド洋とイラクに派遣した自衛隊の自殺者は16人で、派遣全隊員の0.08%に相当するそうだ(毎日新聞 2007/11/13 16:39)。
防衛省は派遣と自殺の因果関係を認めていないようだが、内地よりも過酷な環境が自殺者を多くしているのは間違いない。
この問題を取り上げた照屋氏に敬意を表す。


《追記 2007/11/15》

昨日、「再議決可能になるのは1月11日」と「修正」追記したが、専門家に問い合わせたところ、本文で述べたとおり、「1月12日以降」で間違いないそうだ。二転三転して混乱したことをお詫び申し上げます。


【関連リンク】
日本国憲法-法庫
国会法-法庫
NHK調査 内閣支持率54%-NHKニュース
衆議院-会議録
自衛官が3年連続、年間100人超の自殺者-オーマイニュース
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by mahounofuefuki | 2007-11-12 22:54


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