袋小路の「対話と圧力」

2002年の日朝首脳会談とそれに伴う日朝ピョンヤン宣言は、日朝間の不幸な関係に終止符を打つ明るい兆しとなるはずだった。
しかし、実際は朝鮮の国家機関による日本人拉致の事実が日本社会に衝撃を与え、被害者の帰国問題の混乱や朝鮮の核開発の発覚により、国交正常化交渉は決裂し頓挫してしまった。その間、マスメディアが拉致被害者家族会や「救う会」に迎合した情緒的報道を垂れ流した結果、日朝間の歴史や実情を知らないまま、「北朝鮮」=「拉致」=「おかしな国」というパブリックイメージが形成され、再び排外主義が台頭した。ヒステリックな世論を背景に、「拉致問題」を通して安倍晋三氏が一躍ヒーローとなり、彼はついに首相にまで上りつめた。

日本政府は「対話と圧力」路線を唱え、昨年のミサイル発射実験と核実験を機に朝鮮に対する経済制裁を断行した。一方、国内では在日朝鮮人総連合会に対する弾圧・攻撃を強めた。
この路線は「圧力」に耐えられなくなった朝鮮側から「対話」に出てくるのを待つという「あぶり出し」戦術であり、アメリカの朝鮮「封じ込め」政策と軌を一にしていた。逆にいえば、アメリカが朝鮮の出口を塞いでいる限りは有効だが、そうでなくなれば無効になる弱点をもっていた。

しかも、日本政府は「拉致・核・ミサイル」の解決を国交正常化の条件としたが、「拉致」が突出した結果、北東アジアの安全保障にとって緊急の脅威である核開発問題は、日本社会においては相対的に低く扱われ、ましてや日本の植民地支配の「清算」に至っては一般の人々には完全に無視されてしまった。それどころか一部の人々は、「拉致」を植民地時代の日本の国家犯罪を正当化する道具に利用しているほどである。(忘れてはならないが、拉致被害者支援者の多くは日本の植民地支配を正当化している人々である。)
核問題の軽視は関係各国に疑念を与え、「過去の清算」の軽視は日本の「誠意」の欠如を印象付けた。日朝関係はもはや修復困難になってしまった。

このような現実的・歴史的思考を排除した一方的な「対話と圧力」路線は、現在完全に破たんしつつある。
「頼みの綱」であるアメリカは現在「封じ込め」をやめて米朝2国間協議を再開し、核の無力化を最優先とする交渉が続いている。ブッシュ大統領が平和条約締結の可能性を示唆するまでになった。また、韓国政府は先の南北首脳会談で、休戦状態の朝鮮戦争を完全終結させるための南北及び中国・アメリカの4カ国協議を提唱した。これがもし実現すれば、朝鮮戦争の直接の当事国ではない日本はカヤの外である。
こうなると「圧力」路線は単なる「何もしない」路線でしかない

そして、ついにこんな報道が流れてきた。
米、拉致解決に固執せず 米、拉致解決に固執せず 北朝鮮の追加説明で判断 (47NEWS)
【ワシントン8日共同】米国による北朝鮮のテロ支援国家指定解除に当たり、日本が拉致問題解決まで解除しないよう求めている問題で、米側が、問題が進展したかどうかを判断する上で、横田めぐみさん=失跡当時(13)=ら北朝鮮が「死亡」したと主張している8人に焦点を絞り、日本への追加説明など「北朝鮮の協力姿勢」の有無を重視していることが8日、分かった。米政府の立場について説明を受けた外交筋が明らかにした。
 指定解除の「条件」を6カ国協議で合意した北朝鮮の核施設無能力化と核計画申告にとどめ、拉致問題の「解決」を解除の前提とはみなさない米政府の姿勢が明確になる一方、日本との立場の違いが浮き彫りとなった。
要するに「拉致被害者の全員帰国」を「テロ支援国家」指定解除の条件とはしないということである。残りの被害者の「死亡」について、もう少し「ウソくささ」のない説明さえしてくれれば、「拉致問題」を終わりにするということである。
すでに先月もライス国務長官が、「拉致」の解決を指定解除の条件としない考えを示唆しており(読売新聞9月25日)、アメリカ政府は「拉致」切り捨てに向かっているとみてよいだろう。小泉・安倍両政権の外交は完全に失敗したのである。

日本政府は9日の閣議で、対朝経済制裁の半年延長を決定した。
対北朝鮮制裁を閣議決定 輸入禁止など半年延長 (47NEWS)
このままでは経済制裁をやめるタイミングもないまま、日朝関係の不正常状態が続いてしまうだろう。福田首相は先の所信表明で日朝国交正常化への意欲を示していたが、どうやっても全面的解決が望めない「拉致」に拘泥するかぎり、とてもではないが国交など夢のまた夢である。
今さらではあるが、2002年の日朝首脳会談当時の、国交正常化交渉を通して「拉致」を協議するという路線を続けていれば、もっと違う展開がありえたかもしれない。そう考えると安倍前首相と彼を支持した人々の罪はやはり大きい。

正直なところ核問題はアメリカに任せられる問題ではない。世界最大の核保有国であるアメリカは、自国主導の世界秩序さえ揺るがさなければ、核の完全放棄にこだわらないからである(現にインドやパキスタンの核保有を黙認した)。
日本政府は「拉致」よりも「核」を優先する思い切った政策転換が必要だろう。そして失った信用を取り戻すためには「過去の清算」に最大限の誠意を示すことが必要だろう。世論も冷静さを取り戻してほしい。
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by mahounofuefuki | 2007-10-09 16:10


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